医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 20歳未満の神経性やせ症・希死念慮、コロナ前より依然高い水準-成育医療センターほか

20歳未満の神経性やせ症・希死念慮、コロナ前より依然高い水準-成育医療センターほか

読了時間:約 3分30秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年11月16日 AM11:29

2019~2022年度までの4年分の調査結果を比較

国立成育医療研究センターは11月14日、「神経性食欲不振()」および「希死念慮」についてコロナ流行前の2019年度と、コロナ禍の2020、2021、2022年度の4年度分の調査結果を比較した結果を発表した。この研究は、同センターが全国31病院の協力を得て実施した「子どもの心の診療ネットワーク事業」の一環で行われたもの。研究成果は、同センターのウェブサイトに掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

神経性やせ症は摂食障害の一つで、極端に食事制限をしたり、過剰な食事後に吐き出したり、過剰な運動を行うなどして、正常体重より明らかに低い状態になる疾患である。病気が進行すると、日常生活に支障をきたすこともある。米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では、1)正常の下限を下回る低体重、2)肥満恐怖あるいは体重増加を妨げる行動の持続、3)自己評価に体重や体型が不相応な影響を受け、低体重の深刻さが認識できないなどの特徴が挙げられている。

新型コロナウイルス感染症の流行と長期化は、子どもたちの生活を大きく変化させ、心にもさまざまな影響を及ぼしている。コロナ禍で、希死念慮や自殺企図が増加していることもわかってきている。そこで、同センターが拠点病院として実施する「子どもの心の診療ネットワーク事業」では、コロナ禍の子どもの心の実態を把握するため、2023年4月~6月末に調査を実施した。同事業のオブザーバー協力機関の全国31病院(32診療科)にアンケートを送付し、20歳未満の患者について回答を得た。アンケートの内容は、神経性やせ症や希死念慮などの初診外来患者数や新規入院患者数、神経性やせ症の病床充足率などだった。

調査の留意点として、神経性やせ症の初診外来患者数推移では、神経性やせ症と神経性過食症を合算して回答した2病院および、4年度分すべての調査結果がそろっていない6病院は集計からは除外し、23病院(24科)をまとめた。新入院患者数推移は、18病院(18科)の調査結果をまとめた。「希死念慮、自殺企図」初診外来患者数推移では、希死念慮および自殺企図の区別がなかった1病院は、両方に組み込み集計した。また、2019年度から2022年度の4年間分の希死念慮・自殺企図の項目に回答がない15病院(16科)は集計からは除外し、16病院(16科)の調査結果をまとめ、新入院患者数推移は14病院(14科)をまとめた。

女性の神経性やせ症、病床充足率100%以上の病院が多い

まず、神経性やせ症について、2020、2021年度に増加していた初診外来患者数は、2022年度ではやや減少したものの、コロナ前の約1.4倍と依然として高い水準だった。また、新入院患者数は、2022年度も高止まりであることが明らかとなった。

また、女性の神経性やせ症の病床充足率(現時点で摂食障害で入院している患者数/摂食障害の入院治療のために利用できる病床数×100)は、依然100%以上の病院が多く、中には250%を超える病院もあった。さらに、子どもの神経性やせ症を治療できる医療機関が少ないこともあり、特定の病院に入院患者が集中していることが推測された。

希死念慮・自殺企図、初診外来・新入院数ともに2019年度より高いまま

次に、希死念慮について比較したところ、初診外来患者数は毎年増加傾向にあり、2022年度は2019年度と比べて約1.6倍に増加していた。一方、新入院患者数は、2021年度に一旦は減少に転じたが、2022年度は再び増加し、2019年と比較して約1.9倍となっていた。また、「自殺企図(死ぬつもりで、実際に自殺を図ること)」について、2019度と2022年度を比較すると、初診外来患者数、新規入院患者数ともに約1.7倍となっていたことがわかった。

女性の希死念慮では、2019年度から2022年度で初診外来患者が約1.7倍(98人→166人)、新入院患者数が約1.8倍(84人→148人)。また女性の自殺企図では、2019年度から2022年度で初診外来患者数が約2倍(44人→86人)、新入院患者数が約1.6倍(65人→104人)となり、特に女性の増加が顕著となっていることがわかった。

神経性やせ症対策の拡充、自殺願望を抱く子どもへの精神保健的なアプローチなど課題

調査結果を受け、研究グループは次のように考察、今後の展望を述べている。まず、神経性やせ症について、「コロナ禍の長期化で、神経性やせ症の患者数が高止まりしている状況で、入院病床数を確保することが必要」と指摘し、子どもの摂食障害を診察できる医療機関の拡充も求められていることを挙げた。また、「神経性やせ症は、本人が病気を否認して医療機関での受診が遅れがちなため、子どもの食欲や体重の減少に家族や教育機関が気を配り、深刻な状態になる前に、、内科などの、かかりつけ医を受診することが必要だ」としている。

希死念慮・自殺企図については、「子どもは体も心も成長段階であり、大人と同じ体格になっていたとしても心は未発達であるとされていること、子ども達は自分の心の状態や問題について把握し、言語化することが難しいため、周囲にいる大人(家族や教育機関など)や友達が、日々の様子(食欲不振、不眠、集中力の低下、感情の起伏の変化、やる気の低下、成績の低下など)の変化から、声かけや状況を聞く、悩みや気持ちに寄り添うことが大切になる」とした。さらに、「自殺者が増えていることから、ハイリスクの子ども達へのアプローチも重要であるが、その背景には希死念慮や自殺企図を抱く子ども達の増加があり、精神保健的なポピュレーションアプローチを忘れてはならない」と述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 白血病関連遺伝子ASXL1変異の血液による、動脈硬化誘導メカニズム解明-東大
  • 抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大
  • 自律神経の仕組み解明、交感神経はサブタイプごとに臓器を個別に制御-理研ほか
  • 医学部教育、情報科学技術に関する13の学修目標を具体化-名大
  • 従来よりも増殖が良好なCAR-T細胞開発、治療効果増強に期待-名大ほか