2型糖尿病の病態や発症機序は不明点が多い
筑波大学は11月13日、糖尿病発症初期の新しい分子機序を解明したと発表した。この研究は、同大医学医療系の島野仁教授、東京理科大学生命医科学研究所の松島綱治教授、長浜バイオ大学アニマルバイオサイエンス学科の小倉淳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes」に掲載されている。
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日本の糖尿病有病者と糖尿病予備群は合わせて約2000万人に上ると言われており、生活習慣と社会環境の変化に伴って急増している。糖尿病により引き起こされる網膜症・腎症・神経障害などの合併症や脳卒中、虚血性心疾患などの心血管疾患の発症・進展が大きな問題となっていることから、糖尿病の発症予防や、一度発症しても早期に診断・介入するための有効な予防・診断・治療法の確立が、喫緊の課題だ。
糖尿病の大部分を占め、生活習慣の悪化によって発症する2型糖尿病は、肥満などによるインスリン抵抗性と膵臓のβ細胞のインスリン分泌の低下により引き起こされると考えられているが、その病態や発症機序はいまだ不明な点が多く残されている。
糖尿病モデルマウスの膵β細胞、病態の進行に伴い6種類のクラスターに分類可
研究グループは今回、2型糖尿病の発症過程における、健常から未病状態、糖尿病発症へ進展する際の膵島(膵臓でインスリンを作る組織)の構成細胞の変化を明らかにするために、著明な肥満と高血糖を呈する2型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスの膵島のシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)解析を行い、β細胞・α細胞・δ細胞・PP細胞・マクロファージ・血管内皮細胞・膵星細胞・導管細胞・膵腺房細胞など20種類の細胞クラスターを同定した。また、これにより糖尿病モデルマウスの膵β細胞が、病態の進行に伴い6種類のクラスターに分類されることが判明した。
Anxa10遺伝子発現が発症初期の膵β細胞で特異的に増加、機能不全に関与
発現変動遺伝子の情報をもとに相対的な細胞型や細胞状態の遷移を推定する擬時間解析により、糖尿病の進行に伴って変化する細胞状態のパスウェイを調べたところ、その中の一つが、β細胞が脱分化後に膵腺房様細胞に分化転換する新規の経路であることを見出した。
さらに、糖尿病発症初期の膵β細胞で特異的に発現が増加する遺伝子として、カルシウムおよびリン脂質に結合するタンパク質ファミリーの一つである「Anxa10」を同定した。Anxa10と膵β細胞および糖尿病発症との関連はこれまで報告がなく、Anxa10が糖尿病に至る前の新規未病マーカーとなる可能性がある。また、同遺伝子の発現は、高グルコースや脂肪毒性によるβ細胞内カルシウムの上昇によって誘導され、一方で脱分極に伴うβ細胞内カルシウム量の増加を抑制することにより、インスリン分泌能を低下させることを明らかにした。以上のことから、Anxa10は機能的にも膵β細胞の初期の機能不全に深く関与することが示唆された。
2型糖尿病発症初期の分子機序の解明、新規治療法開発に役立つ可能性
今回の研究成果により、糖尿病の未病から発症初期の膵β細胞の性質の変化と膵島細胞社会の変遷、特に未病の膵β細胞で増えるAnxa10が細胞内カルシウムの恒常性を乱し、膵β細胞からのインスリン分泌低下を引き起こすという新しい分子機序が明らかとなった。
「これらの知見は、2型糖尿病発症初期の分子機序の解明や、新規の予防・診断・治療法の開発に寄与すると期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL