糖尿病の治療薬が骨格筋機能に与える影響は不明だった
九州大学は11月10日、肥満糖尿病マウスにSGLT2阻害薬「カナグリフロジン」を投与すると、骨格筋で内因性AMPK活性化物質の増加を伴って持久力を改善させることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、宮地康高助教、中村慎太郎大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載されている。
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加齢などによる骨格筋量と筋力の低下はサルコペニアと呼ばれ、転倒や骨折や寝たきりのリスクを増加させる。しかし、サルコペニアに対する有効な治療法はなく、高齢化社会の日本において治療法開発は喫緊の課題だ。
糖尿病はサルコペニアのリスクを増加させることが知られているが、糖尿病の治療薬が骨格筋機能に与える影響については、これまでほとんど検討されていなかった。SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管に作用して尿糖排出を促進させることで血糖値を低下させる糖尿病治療薬。これまで尿糖排出によるカロリー消失により、血糖低下のみならず体重減少などの有効性が報告されてきたが、同時に骨格筋量が減少するのではないかという懸念があった。
研究グループは以前、糖尿病のないマウスにSGLT2阻害薬を投与して骨格筋への影響を検討したところ、エサを自由に食べさせた時にはSGLT2阻害薬を投与しても骨格筋量に変化はなかったが、エサを制限すると骨格筋量が減少して握力が低下することを報告していた。
肥満糖尿病マウスへのSGLT2阻害薬投与、骨格筋量・握力は変化せず持久力改善
今回の研究では、肥満糖尿病マウスにSGLT2阻害薬を投与し、骨格筋機能に対する効果を評価した。肥満糖尿病マウスにSGLT2阻害薬カナグリフロジンを4週間投与したところ、骨格筋量は減少せず、握力も変化しなかった。一方、持久力を評価したところ、SGLT2阻害薬を投与したマウスは投与していないマウスと比較して、トレッドミル走行距離が約5倍に増加した。
骨格筋で「AMPK」活性化物質の増加を伴い持久力が改善
さらに、持久運動に重要なヒラメ筋と瞬発運動に重要な長趾伸筋のメタボロームデータを比較。その結果、SGLT2阻害薬により、ヒラメ筋と長趾伸筋で複数の代謝物が共通して変化していたが、AICARPと呼ばれる代謝物はヒラメ筋でのみ増加していることが判明した。
AICARPはAMPKと呼ばれる燃料センサーを活性化させて、脂肪酸を酸化させることが知られている。実際、ヒラメ筋を解析したところ、AICARPの増加と一致してAMPKが活性化し、脂肪酸酸化が亢進していることがわかった。AMPKの活性化は糖や脂肪酸の利用を促進してエネルギー産生を増加するため、ヒラメ筋において認められた代謝変化はマウスの持久力の改善につながった可能性があるという。以上の結果から、SGLT2阻害薬の投与により、骨格筋での代謝物の変化を伴って糖尿病マウスの持久力が改善することが明らかになった。
骨格筋代謝物を標的としたサルコペニア治療法の開発に期待
骨格筋におけるAICARP-AMPK経路の役割を詳細に検討することにより、SGLT2阻害薬に対する反応のみならず、運動やさまざまな疾患における機能的意義が明らかになると考えられる。また、AICARPなどの骨格筋の代謝物を制御することができるようになれば、加齢や糖尿病などにより低下した運動機能を改善させる治療法の創出につながることが期待される。
「今回の研究は、骨格筋内におけるAICARPの増加と持久力の回復の関連を示している。将来、骨格筋の代謝物を標的としたサルコペニア治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果