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日本人の腸内微生物叢、ゲノム/血中代謝物との関連を網羅的解析で解明-阪大ほか

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2023年11月08日 AM11:44

腸内微生物叢と宿主との相互作用、日本人や微生物遺伝子を含めた解析は少ない

大阪大学は11月7日、メタゲノムショットガンシークエンシングやマススペクトロメトリーを用いて、日本人集団最大524人を対象に、腸内微生物叢情報、ヒトゲノム情報、血中代謝物情報からなるマルチオミクス情報を構築し、それを用いてオミクスデータ間の関連を網羅的に探索したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の友藤嘉彦大学院生(研究当時、遺伝統計学)、岸川敏博特任助教(研究当時、遺伝統計学)、岡田随象教授(遺伝統計学、理化学研究所生命医科学研究センターシステム遺伝学チームチームリーダー/東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの腸内には、細菌やウイルスなど、数多くの微生物が存在し、腸内微生物叢を構成している。腸内微生物叢は免疫反応や代謝応答を介して宿主と相互作用することが知られており、自己免疫疾患、代謝疾患、悪性腫瘍など、多くの疾患に腸内微生物叢が関与している。しかし、腸内微生物叢と宿主の相互作用について、その全容は明らかになっていなかった。

腸内微生物叢と宿主との相互作用にはヒトゲノムの個人差が影響することが知られている。しかしながら、先行研究の多くでは16SリボソームRNA解析によって腸内微生物叢データを取得しており、細菌の系統情報の解像度が低い、微生物由来遺伝子の情報が手に入らない、などの制約があった。また、・ヒトゲノムには人種集団間での差があるものの、先行研究の多くが欧州人集団における研究であり、他の民族集団を対象とした研究が求められていた。

また、血中代謝物も腸内微生物叢と宿主との相互作用に寄与することが知られている。一方で、ゲノム–腸内細菌叢関連解析と同様に、先行研究のほとんどが欧州人集団を対象としており、16SリボソームRNA解析によって腸内微生物叢データを取得しているという制約があった。特に、菌種の情報のみを用いた腸内微生物叢–血中代謝物では関連の機序を推察するのがしばしば困難であり、腸内微生物叢について、遺伝子などの機能単位で評価を行うことが求められていた。

腸内微生物叢の全ゲノム情報が得られるメタゲノムショットガンシークエンシングに着目

メタゲノムショットガンシークエンシングは腸内微生物叢から得られる全てのゲノム情報(メタゲノム)をハイスループットシークエンサーによって配列決定する手法であり、16SリボソームRNA解析と比較して、菌種情報の解像度が高い、遺伝子・パスウェイなどの機能的な情報も手に入るといった利点がある。腸内微生物叢と宿主の関連を探索する際にも、メタゲノムショットガンシークエンシングの活用が望ましいと考えられているが、バイオインフォマティクス解析の煩雑さやシークエンシングコストの高さが問題となり、メタゲノムショットガンシークエンシングの活用は十分に進んでいない。

日本人腸内微生物叢を評価、ゲノム・血中代謝物情報との関連解析を実施

今回、研究グループは、524人の腸内微生物叢をメタゲノムショットガンシークエンシングによって評価し、菌量に加えて、微生物由来遺伝子や生物学的パスウェイについて定量化を行った。さらに宿主側の情報として、ヒトゲノム情報を全ゲノムシークエンシングおよびSNPアレイで、血中代謝物情報をマススペクトロメトリーで取得し、腸内微生物叢関連特徴量との関連解析を行った。

423種の腸内細菌量とのGWASで、欧州人では低頻度の多型と特定の細菌との関連などを同定

まず、ゲノムワイド関連解析()によって、423種の腸内細菌の量とヒトゲノム配列全域の多数の遺伝子多型との関連を網羅的に探索した。その結果、PDE1C遺伝子領域にある遺伝子多型とBacteroides intestinalisとの関連および、TGIF2/TGIF2-RAB5IF遺伝子領域にある遺伝子多型とBacteroides acidifiaciensとの関連が同定された。特に、PDE1C遺伝子領域にあるBacteroides intestinalis関連遺伝子多型は欧州人集団中での頻度が極めて低い遺伝子多型であり、欧州人以外の人種集団でも解析を行うことの重要性を示唆する結果だった。

4,644の腸内微生物由来遺伝子と網羅解析、血液型A型とGalNAc代謝関連菌の多さを示唆

また、4,644個の腸内微生物由来遺伝子とゲノムワイドな遺伝子多型との関連を網羅的に探索したところ、ABO遺伝子領域にある遺伝子多型と、A型血液型抗原を構成するN-アセチルガラクトサミンの代謝に関わる微生物由来遺伝子であるagaEおよびagaSとの関連が同定された。ABO血液型はABO遺伝子領域にある複数の遺伝子多型によって決定されるため、遺伝子多型情報から個人のABO血液型情報を決定することができる。そこで、遺伝子多型情報から決定したABO血液型情報とagaEおよびagaS遺伝子との関連を評価したところ、agaEおよびagaSはA型の個人において比較的多いことがわかった。ABO血液型抗原は腸管内に分泌されていることが知られており、血液型がA型の個人では、B型やO型の個人と比べて、腸内におけるN-アセチルガラクトサミンの量が多くなっていると考えられる。その結果としてA型の個人の腸内では、N-アセチルガラクトサミンを利用できる細菌の量が増えているのではないかと推察された。興味深いことに、agaEやagaS遺伝子を持つ細菌の中には、Collinsella属やEscherichia属など、過去に疾患との関連が報告されている菌が含まれていた。ABO血液型は一部の疾患と関連することが知られており、今後、ABO血液型・・疾患の関連の解明が期待される。

胆汁酸代謝に関わる腸内細菌、血中胆汁酸の個人差と関連する可能性

最後に、腸内細菌と363種類の血中代謝物との関連を網羅的に探索したところ、胆汁酸と多くの腸内細菌とが関連を持っていた。このことは、胆汁酸が腸内細菌に対して傷害性を持っていること、そして一次胆汁酸から二次胆汁酸への代謝を腸内細菌が担っていることを反映していると考えられた。さらに、腸内微生物由来遺伝子と血中代謝物との関連を網羅的に探索したところ、胆汁酸代謝に関連する微生物由来遺伝子であるbai遺伝子群や7β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ遺伝子が胆汁酸と関連を持っており、腸内細菌による一次胆汁酸から二次胆汁酸への代謝の個人差が、血中に存在する胆汁酸の個人差にも関連している可能性が示唆された。以上のように、腸内微生物叢を遺伝子単位で評価することによって、腸内微生物叢–血中代謝物間の関連について機能的な解釈を行うことが可能になった。

データベースは公開済み、宿主・腸内微生物叢・疾患の相互作用探索の資源になると期待

今回の研究成果によって、日本人における腸内微生物叢・ヒトゲノム・血中代謝物の関連が明らかになった。また、本研究によって、欧州人集団以外の人種集団で解析を行うことや、16SリボソームRNA解析ではなくメタゲノムショットガンシークエンシング解析を行うことの重要性が実証され、今後の腸内微生物叢研究の対象集団の多様化・データの深化に寄与すると期待される。「構築された包括的なデータベースは公共データベースとして公開されており、今後、宿主因子・腸内微生物叢・疾患の相互作用を探索していく上で、基礎的な研究資源になると期待される」と、研究グループは述べている。

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