VR技術がため込み症の治療に役立つ可能性示唆
ため込み症の人が散らかった部屋を片付けるのにバーチャルリアリティー(VR)を利用したプログラムが役立つ可能性のあることを、米スタンフォード大学医学部精神医学・行動科学教授のCarolyn Rodríguez氏らが報告した。この研究結果は、「Journal of Psychiatric Research」10月号に掲載された。
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米国では罹患率が2.5%と推定されているため込み症が精神疾患の一つとして定義されたのは、わずか10年前のことに過ぎない。ため込み症患者は、本人の身の安全性や人間関係、仕事の能力を損なうレベルにまで物をため込む環境を作り出す可能性があるが、スティグマや羞恥心から助けを求めることを控えることもある。ため込み症には遺伝的要因の関与が示唆されているが、それだけが原因とは考えられていない。また、その重症度は10年ごとに高まる可能性も指摘されている。ため込み症の主な治療法の一つは、対面での片付けの訓練を含む認知行動療法だが、この方法では臨床医に危険が及ぶ場合がある。
Rodríguez氏らは今回、ため込み症患者が症状管理に必要な手順を踏む練習にVRが役立つかどうかを確認するための小規模なパイロット研究を実施した。その意図について同氏は、「安全面について懸念する必要がない方法で、こうした訓練の有用性を明らかにしたかった」と説明している。
研究は、56〜73歳のため込み症患者9人(平均年齢64.0歳)を対象に実施された。研究参加者には、自宅の最も散らかっている部屋の写真と動画、および30点の所有物の写真を撮影してもらい、これらのデータを基に、3Dのバーチャル環境を作り出した。まず、参加者たちは、ピアサポートとため込み症に関わる認知行動スキルの提供を目的とした16週間のリモートによるグループセラピーを受けた。また、グループセラピーの7週目から14週目には、VRヘッドセットと手動型のコントローラーを使って、臨床医の指導による1時間のVRセッションを受けた。VRセッションでは、自分の所有物をリサイクル、寄付、またはごみ箱のいずれかに出す訓練をした。その上で、実際の所有物を自宅で処分することが課された。
その結果、研究に参加した全ての患者が平均24.9%の症状の軽減を報告し、9人中8人でセッション後の家の散らかり具合が平均14.8%改善したことが確認された。
Rodríguez氏によると、この研究での興味深い発見の一つは、VR環境では、収集される物と、その物への愛着を生み出す要因のいくつかを分離できたことだったという。同氏は、「VR環境では、実際に物に触ることはできず、また、大切な人や物にまつわる経験を思い出させるにおいを感じることもできないため、捨てることに対する余地が生まれる。また、VR環境では何かを手放す練習を何度も繰り返すことが可能だ。そうすることで意思決定できるようになるための感情面のスキルを養うこともできる」と説明している。
なお、今回の研究で示されたため込み症の改善度は、過去の研究で報告されている、対面でのグループセラピーのみを受けた場合の改善度と同程度であった。そのため、VRを用いた訓練の効果がどの程度なのかは不明だ。また、VRを用いた訓練を受けた患者の一部からは、訓練が非現実的に感じられたとの意見も聞かれた。このことは、より先進的な技術の必要性を示唆しているとも考えられる。
今回の研究には関与していない、米インスティテュート・オブ・リビング不安障害センターのDavid Tolin氏は、「VRの利用が実現可能で、患者の受容性も高いことを示した研究結果だ。ため込み症の治療は非常に困難なことが多いため、この知見の意義は大きい」との見解を示している。ただし同氏は、「この研究により、VRがため込み症の治療に有効であることが明らかになったわけではないことを認識しておく必要がある」とし、今後、対照群を設定した研究の実施に期待を示している。
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