ストレスによる薬物欲求増大の神経メカニズム解明が求められている
金沢大学は10月31日、社会的ストレスによるコカイン欲求増大の脳内メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医薬保健学総合研究科創薬科学専攻博士後期課程1年の齋藤惇氏、2年の二井谷和平氏、医薬保健学域薬学類5年の村田陽香氏、永崎純平氏、および医薬保健研究域薬学系の金田勝幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuropharmacology」オンライン版に掲載されている。
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麻薬や覚醒剤などによる薬物依存症は、一旦やめてもストレスなどが引き金となり、薬物への渇望感が増大することにより、再び摂取してしまうことが繰り返される再燃性の高い難治性精神疾患で、その患者数は世界で約3千万人にも上るとされている。
患者本人の健康・人生のみならず周囲や社会への影響、さらには経済的損失も甚大であることから、治療薬・治療法の開発は喫緊の課題だ。しかし有効な治療薬はなく、認知行動療法もごく少数の専門医療機関での実施に留まっているのが現状だ。ストレスによる薬物欲求増大の脳内メカニズムを解明し、その知見に基づいた治療薬・治療法の開発が望まれているが実現していない。
ストレス負荷マウスはコカイン欲求増大、シロドシンを全身/脳mPFC局所投与で抑制
このような背景から研究グループは、条件付け場所嗜好性試験に社会的敗北(social defeat, SD)ストレス負荷を組み合わせた独自のマウス実験系を確立し、ストレスによるコカイン欲求増大の脳内メカニズム解明に向けて研究を進めてきた。その中で、ストレスによって伝達が亢進するノルアドレナリン(noradrenaline, NA)と、その受容体の一つである「α1A受容体」および薬物欲求情報処理に関わるとされる「内側前頭前野(medial prefrontal cortex, mPFC)」に着目し、SDストレスによるマウスのコカイン欲求増大に対するmPFCでのα1A受容体拮抗薬シロドシンの作用を検討した。
その結果、マウスにSDストレスを負荷するとコカイン欲求が増大し、この増大はα1A受容体拮抗薬シロドシンの全身性投与、またはmPFC内局所投与によって抑制されることを見出した。また、mPFCを含む脳スライス標本での電気生理学的解析から、NAはmPFC神経細胞での興奮性神経伝達を亢進させ、シロドシンはこの亢進を抑制することを明らかにした。
シロドシン、経鼻投与でもストレスによるコカイン欲求増大を抑制
シロドシンは前立腺肥大症治療薬として臨床適用されているが、血液脳関門を透過しないことが知られている。そのため、脳内に薬物を非侵襲的に送達する方法の一つ「経鼻投与」で効果を示すか検討したところ、この投与法でもストレスによるコカイン欲求増大を抑制することを見出した。
シロドシンの経鼻投与が薬物依存症治療薬となる可能性
今回の研究により、シロドシンがmPFC神経細胞でのNAによる興奮性神経伝達促進作用を阻害することでストレスによるコカイン欲求増大を抑制することが明らかにされた。「将来的に、シロドシンの経鼻投与がストレスによる薬物欲求増大を抑制するという新たな角度からの薬物依存症治療薬となる可能性が期待される」と、研究グループは述べている。
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・金沢大学 プレスリリース