てんかん焦点マーカーとして注目の発作時DC電位、時定数10秒記録が有用とされる
千葉大学は10月31日、時定数2秒記録の頭蓋内脳波で、発作時DC電位が難治てんかん焦点の新しいバイオマーカーとして有用であることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学薬学府博士後期課程の和泉允基大学院生(研究当時)ら、京都大学大学院医学研究科の池田昭夫教授ら、国立精神・神経医療研究センターの岩崎真樹脳外科部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Epilepsia」にオンライン掲載されている。
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てんかんは約100人に1人が発症し、世界に約5000万人患者がいるとされる一般的な脳の病気だ。脳の神経細胞やアストロサイトの異常により、てんかん発作を起こすとされており、発作抑制のために抗発作薬を用いる。しかし、約3割の患者は投薬で発作が完全に抑制されず、難治てんかんとされる。一部の難治てんかん患者は、てんかん発作を生じさせる「てんかん焦点」を外科治療で取り除くことにより、発作がなくなる、または、減ることがある。外科治療の効果は、てんかんの原因となっているてんかん焦点を正確に同定できるかで決まる。
発作時DC電位はてんかん焦点を見つけるための新しいバイオマーカーとして注目され、表示時定数を0.1秒から2.0秒に変更することで明瞭となる。これまでの研究では、時定数10秒記録の脳波で有用とされてきたが、世界で一般的に使われている脳波計は時定数2秒記録であることから、発作時DC電位をバイオマーカーとして使用する際の制限となっている。
一般的な「時定数2秒」表示でも有用か?25人の患者記録で検証
研究グループの先行研究において、時定数10秒記録の脳波にデジタルフィルターをかけて時定数2秒表示とした脳波でも、発作時DC電位が十分に観察可能であることが示唆された。そこで今回の研究では、時定数2秒記録の頭蓋内脳波を使用し、発作時DC電位が観察可能であるか、また発作転帰と関連があるかについて検討した。
今回の研究では、過去に難治てんかん患者25人の外科手術用に記録した時定数2秒の頭蓋内脳波を収集・解析し、発作時DC電位が観察可能かどうか検討した。また、発作時DC電位が出現した領域の切除と、発作転帰に関連性があるのかを検証した。
10秒記録と比較して2秒でも十分に観察・解析可能、領域切除で良好な発作転帰
研究の結果、発作時DC電位は147発作中142発作(96.6%)で出現。先行研究で報告されている時定数10秒記録の脳波と比較して、振幅は減衰するものの十分に観察・解析可能であることを明らかにした。
また、発作時DC電位が主に出現している領域が外科切除された症例は、切除されていない症例と比較して良好な発作転帰を示したことが明らかになった。
時定数2秒記録の発作時DC電位利用で、外科治療成績向上に期待
時定数2秒記録の発作時DC電位を利用して、より多くの施設の外科治療成績向上につながると期待される。また、時定数2秒記録は頭皮脳波でも幅広く使用されており、頭皮脳波でDC電位を評価できるようになれば、頭蓋内に電極を留置しなくてもてんかん焦点をある程度絞ることの出来る可能性も示唆された。適応はてんかんに留まらず、片頭痛、急性脳障害、一過性脳血流障害、一部の認知症などの頭皮脳波でDC電位のような所見を示す疾患が知られている。今回の研究により、それらの疾患にも時定数2秒の頭皮脳波記録で応用が期待される、と研究グループは述べている。
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・千葉大学 プレスリリース