腱板断裂における脂肪浸潤・筋萎縮治療として、FAPs褐色化に着目
大阪公立大学は10月31日、副甲状腺ホルモン(PTH)投与により、間葉系前駆細胞(FAPs)の褐色化を誘導し、腱板断裂に伴う腱板筋の脂肪浸潤と筋萎縮の進行が抑制されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科整形外科学の飯尾亮介大学院生(大阪市立大学大学院医学研究科博士課程3年)、間中智哉講師、中村博亮教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The American Journal of Sports Medicine」にオンライン掲載されている。
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腱板断裂は肩痛を生じる代表的な疾患であり、可動域制限や筋力低下、疼痛の原因となる。断裂後の経過が長くなると、腱板筋の脂肪浸潤・筋萎縮が進行し、筋の質と量が低下。腱板の縫合手術を行っても再断裂する可能性が高く、修復が難しくなる。この脂肪浸潤と筋萎縮に対する治療法として、研究グループはFAPsの褐色化に着目した。
FAPsは、骨格筋が病的な状態になると脂肪を蓄積する白色脂肪細胞へと分化し、褐色脂肪細胞様の「ベージュ脂肪細胞」へと誘導すると脂肪を分解する特徴がある。さらにベージュ脂肪細胞から分泌される因子により筋再生が促進する特徴があることもわかっている。
腱板断裂モデルラットにPTH投与で筋委縮・脂肪浸潤を抑制
今回の研究では、早期に臨床応用することを見据え、すでに骨粗鬆症の治療薬に使われているPTHをFAPsの褐色化を促進する薬剤として選定。ラット腱板断裂モデルの実験で、PTHを4週間、8週間投与し観察した。その結果、腱板筋の筋委縮と脂肪浸潤が抑制され、ベージュ脂肪細胞のマーカーであるUCP1の発現が上昇していた。
PTHにより分化誘導のベージュ脂肪細胞分泌因子VEGF、筋再生を促進
次に、FAPs細胞実験では、脂肪細胞へと分化させる培地にPTHを添加して培養した。その結果、褐色化に関連する遺伝子の発現が上昇し、脂肪滴の蓄積が抑制された。また、PTHにより分化誘導されたベージュ脂肪細胞の分泌因子VEGFが筋再生を促進することも明らかになった。
今後、慢性腱板断裂モデルで脂肪浸潤・筋萎縮の可逆的改善を検証予定
研究グループは今後、腱板筋の脂肪浸潤と筋萎縮が進行した慢性腱板断裂モデルを用いて、脂肪浸潤・筋萎縮が可逆的に改善するかを検証する予定だとしている。これが立証されれば、修復不能な腱板断裂が修復可能となり、治療法の拡大に貢献できるとともに、運動器疾患治療への幅広い応用につながる。将来的には、ロコモティブシンドロームや廃用症候群の治療にもつなげたい、と研究グループは述べている。
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