抗がん剤への耐性が課題となる胆道がん治療、新規治療薬としてマイクロRNAに着目
岡山大学は10月28日、マイクロRNAの一つであるmiR-451aが、化学療法で使用される抗がん剤ゲムシタビンに抵抗性をもつ胆道がんへの抗腫瘍効果を示すことを、細胞株やより生体に近い3Dモデルを用いた実験で発見するとともに、そのメカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、同大大学病院消化器内科の小幡泰介医員(博士課程4年)、堤康一郎助教、学術研究院医歯薬学域(医)消化器・肝臓内科学の大塚基之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy—Nucleic Acids」にオンライン掲載されている。
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胆道がんとは、胆嚢がん、肝内・肝外胆管がん、十二指腸乳頭部がんをまとめた総称である。アジアや南米を中心に世界中で患者数は増加傾向にあり、国立がん研究センターがん情報サービスによると2019年に日本では2万人を超える患者が胆道がんと診断されている。胆道がんは手術が唯一の根治治療法だが、進行するまで症状が乏しいことが多く、診断時で実に約半数の患者が手術のできないステージIVに進行しているとされる。そのため、実際の治療の中心は抗がん剤による化学療法となるが、有効な薬剤は「ゲムシタビン」ほか少数に限られている。従ってゲムシタビンへの耐性(抵抗性)を示す胆道がんの治療が大きな課題となっている。
一方、マイクロRNAは約22塩基からなる非常に短いRNAであり、複数の遺伝子の転写産物を標的として直接結合することによって、それらの遺伝子発現を抑制する機能を有している。従って、「がん発育を促進する遺伝子」の発現を抑制するマイクロRNAは、新しいがん治療薬の一つとして注目が集まっている。
miR-451a導入、肝内・肝外胆管がんやゲムシタビン耐性胆嚢がんなどで細胞増殖抑制
研究グループは以前、健常人に比べて胆嚢がん患者の血液に存在する細胞外小胞と呼ばれる袋状の粒子中や胆嚢がん組織中にはmiR-451aの存在量が少なく、胆嚢がん細胞にmiR-451aを導入することによって、細胞の増殖抑制を誘導できることを発表した。今回の研究ではさらに、肝内・肝外胆管がんやゲムシタビン耐性の胆嚢がん、胆管がんでもmiR-451aの導入によって細胞増殖や生存の抑制を誘導できることを、細胞株やより生体に近いスフェロイドやオルガノイドモデルを用いて明らかにした。
アポトーシス誘導や上皮間葉転換の抑制など複数機序で抗腫瘍効果を発揮
また胆道がんに与えるmiR-451aの影響として、細胞増殖抑制だけでなく、アポトーシスの誘導や上皮間葉転換の抑制といった、複数の機序により抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。さらにそのメカニズムの一端として、miR-451aによるマクロファージ遊走阻害因子(MIF)遺伝子の発現抑制と、それに続くPI3K/Aktシグナル経路の制御が関与していることを明らかにした。
核酸医薬、新たな手段での胆道がん治療薬開発に期待
胆道がんはいまだ難治ながんの一つであり、有効な抗がん剤が少ない。「miR-451aが胆嚢がんおよび肝内・肝外胆管がんを含む胆道がん、さらにはゲムシタビン耐性胆道がんに対して増殖抑制効果を誘導することを発見できたことから、いわゆる核酸医薬と呼ばれる新たなモダリティによる胆道がん治療薬の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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