Long COVIDにセロトニンが大きく関与している可能性
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の一部では、ウイルスが腸内に数カ月にわたり残存し、この残存ウイルスがセロトニン濃度を低下させ、それがlong COVIDの一因となっているようだ。このメカニズムにより、倦怠感、ブレインフォグ、記憶力低下などの症状を説明できる可能性があるという。米ペンシルベニア大学ペレルマン医科大学院のMaayan Levy氏らによる研究結果であり、詳細は、「Cell」10月26日号に掲載された。
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COVID-19罹患後に症状が数カ月から数年続く、いわゆるlong COVIDになるのは、米国ではCOVID-19罹患者の約20%だという。論文の上席著者であるLevy氏は、同大学のニュースリリースで、「long COVIDの根底にある生物学的な側面の多くは不明である。その結果、診断と治療のための有効な手段がない」と述べている。今回の研究について同氏は、「long COVIDの発症メカニズムの解明に役立つほか、臨床医が患者を診断し、治療への反応を客観的に評価するのに役立つバイオマーカーを提示することができた」と説明する。
本研究は、long COVIDの分子生物学的病因を検討するために実施された。さまざまな臨床研究から得られた、COVID-19急性期患者やlong COVID患者などの血漿サンプルと糞便サンプルを分析した。また、ウイルス感染症モデルマウス、ヒト小腸組織などを用いて、long COVIDと関連するメカニズムを検討した。
その結果、long COVID患者の一部では、感染から数カ月が経過しても、新型コロナウイルスが糞便中に残存していた。この残存ウイルスが免疫系を刺激し、ウイルスと闘うインターフェロンを放出させていた。インターフェロンが引き起こす炎症により、消化管でのトリプトファンの吸収が低下すると、セロトニン濃度が低下することが判明した。
トリプトファンは、主に消化管で生成される必須アミノ酸であり、トリプトファンから5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を経て、セロトニンが合成される。セロトニンは、脳や全身の神経細胞間で情報を伝達し、記憶、睡眠、消化、創傷治癒の調節に重要な神経伝達物質。また、セロトニンは迷走神経の調節因子でもあり、迷走神経は身体と脳の間の情報伝達に重要な役割を果たす。著者らは、「セロトニン濃度の低下が迷走神経のシグナル伝達を阻害し、記憶障害など、long COVIDに関連するいくつかの症状を引き起こしている可能性がある」と説明している。
研究グループはさらに、トリプトファンやセロトニンを補充することがlong COVIDの症状改善に有益かどうかを検討した。認知機能を低下させたマウスモデルに、5-HTPまたは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を投与したところ、認知機能が改善するという結果が得られた。
論文の共同責任著者である同大学のBenjamin Abramoff氏は、「SSRIがlong COVIDの予防に有効であることを示唆するエビデンスはいくつかある。今回の研究が、セロトニン濃度が低下している患者を選別し、治療反応を評価するといった臨床試験につながることが期待される」と述べる。また、共同責任著者で同大学のChristoph Thaiss氏は、「今後、ウイルスの残存、セロトニン濃度の低下、迷走神経の機能障害につながる経路の影響を受けるlong COVID患者の割合や、さまざまな症状への新たな治療標的について、さらなる研究が必要となる。われわれの研究は、そのための良い機会を提供するものだ」としている。
▼外部リンク
・Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection
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