DRの早期発見やPDRのスクリーニングに使用できる簡便な技術確立が求められていた
東北大学は10月26日、爪床毛細血管(NC)の測定データが、糖尿病網膜症(DR)の存在および重症度に関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授、國方彦志特命教授、岡部達医師らの研究グループと、あっと株式会社の共同研究によるもの。研究成果は、「Graefes Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology」に掲載されている。
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DRは国内の失明原因第3位で、年間数千人がDRにより失明している。DRはその重症度によって、DRなし(NDR)/非増殖性DR(NPDR)/増殖性DR(PDR)に分類される。DRの進行予防には良好な血糖コントロールをはじめ血圧や脂質などの全身管理が必要だが、それでもなお進行してしまうことも多く、PDRに至ると手術を行っても不可逆的な重度の視力障害を来す場合も少なくない。
DRは複雑な分子メカニズムにより引き起こされており、特異的なバイオマーカーがないため、DRの早期発見は一般的には難しいのが現状だ。そのため、DRの早期発見やPDRのスクリーニングに使用できる簡便な技術を確立することは、現代社会において重要な意義を有し、良好な視機能を保つために寄与するものと考えられる。
糖尿病では、NCパラメータの本数減・長さ短縮・幅狭小化・濁度強
研究グループは今回、2型糖尿病患者において、NC解析データがDRの有無およびDR重症度と関連するか否かを検討するため、83人の2型糖尿病患者と63人の非糖尿病患者(対照群)を比較した。NCは、あっと株式会社の爪床毛細血管スコープを用いて撮影し、毛細血管画像解析システム(Capillary Analysis System)により本数・長さ・幅・濁度について定量化し、NCパラメータとして統計解析に用いた。
その結果、糖尿病患者は対照群と比較して、有意にNCパラメータの本数が減少、長さも短縮、幅も狭小化、濁度は強くなることが明らかになった。
DR重症度が高くなるにつれてNCの構造的変化も強くなる傾向
糖尿病患者ではDR重症度が高くなるにつれて、NCの構造的変化が強くなる傾向にあり、NCパラメータはDRとPDRの識別能を有していた。年齢、性別、収縮期血圧(SBP)、推定糸球体濾過量(eGFR)、ヘモグロビンA1c(HbA1c)値、高血圧および脂質異常症の既往歴などの全身因子もDRおよびPDRの存在と関係していたが(それぞれ順に、受信者動作特性曲線下面積[AUC]=0.81, P=0.006; AUC=0.87, P=0.001)、その全身所見にNCパラメータ(長さ)を加えるとDRの識別能をさらに有意に改善させることが明らかになった(P=0.03, AUC=0.89, P<0.001)。
将来的に、NC測定によるDRリスク評価確立を目指す
今回の研究からNCはDRと関係が深いことが明らかになった。さらに、既知のDR全身リスクを補完して高精度にDRリスクを予測することを可能にするため、NC測定は非侵襲的で簡便な検査方法になり得ると考えられた。より大規模なデータで解析検討を続け、今回のNCパラメータ以外のパラメータとの関係についても考察し、将来的にはNC測定によるDRリスク評価を確立し、社会実装を経て世の役に立てていく予定だという。
研究グループは「NCの構造的変化が、網膜毛細血管の構造的変化と並行して変化するのか、先行して変化するのかなど、より詳細な検討も行う予定だ。毛細血管スコープによるNC測定は非侵襲的で誰でも測定できるため、検診や日常生活などで活用され、患者の意識変革と行動変容を促すような簡便なツールになることが期待される」と、述べている。
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