DP受容体のシグナルが「腸管バリア」機能に与える影響は?
東京大学は10月25日、腸管バリアを強化する脂質を発見したと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科の林亜佳音特任研究員(獣医学専攻)、坂本直樹氏(獣医学専攻 博士課程学生)、小林幸司特任講師(食と動物のシステム学)、村田幸久准教授(獣医学専攻)の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」に掲載されている。
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食物を消化吸収する器官である腸管には、食物抗原や細菌毒素などが体内へ侵入することを防ぐバリア機能が備わっている。このバリアは主に、タイトジャンクションで強固に結合した一層の腸管上皮細胞と、その上を覆うムチン層によって形成されている。腸管バリアが破綻した状態は「リーキーガット」と呼ばれる。この状態では食物抗原が吸収されやすくなるため、食物アレルギー反応を起こしやすくなり、また、細菌毒素の侵入から炎症性腸疾患などの疾患が引き起こされやすくなる。そのため、リーキーガットに起因する疾患を予防・治療することを目的に、腸管バリアを強化する方法の開発が求められている。
プロスタグランジンD2は、細胞膜由来の脂肪酸が酵素によって代謝・産生される脂質の一つ。研究グループはこれまで、プロスタグランジンD2の受容体の一つであるDP受容体のシグナルを薬物で刺激することにより、食物アレルギーや炎症性腸疾患の症状を改善できることを発見してきた。過去の研究では、その機構の一つとしてDP受容体のシグナル刺激が腸管組織への免疫細胞の浸潤を抑制していることを示してきた。一方で、DP受容体のシグナルが腸管のバリア機能に与える影響は不明だった。そこで今回、DP受容体のシグナルの刺激が腸管のバリア機能に与える影響と、その機構の解明を目的として実験を行った。
DP受容体作動薬マウス腹腔内投与で、腸管透過性が低下し腸管バリア増強
まず、マウスに蛍光標識されたデキストランを経口投与し、腸管から吸収された蛍光標識デキストランの血中濃度を測定することで腸管透過性を評価した。その結果、DP受容体作動薬を腹腔内へ投与すると腸管透過性が低下し、腸管バリアが増強されることがわかった。
摘出した腸管を用いた実験でも同様に、DP受容体の刺激が腸管バリアを強化して、色素の漏出を防ぐという結果が得られたという。免疫染色を行ったところ、DP受容体はマウスの腸管上皮細胞に発現していることが判明した。
DP受容体の刺激、杯細胞内から腸管管腔内へのムチンの放出を促進
続いて、DP受容体の刺激が腸管バリアを亢進させるメカニズムを検討した。ヒト腸管上皮細胞株であるCaco-2を用いてタイトジャンクションの結合強度を評価したところ、DP受容体作動薬はこれを変化させなかったため、ムチン層の形成に着目することにした。ムチン層は腸管上皮細胞の一つである杯細胞が産生するムチンによって構成されている。マウス腸管の組織切片中のムチンを染色して観察すると、DP受容体の薬物による刺激は杯細胞内から腸管管腔内へのムチンの放出を促進することがわかった。
DP受容体の刺激による腸管透過性の抑制にムチン層が必要
最後に、DP受容体の刺激によるムチンの放出が腸管バリアに与える影響を評価した。摘出した腸管を用いた実験において、ムチン層を除去すると、腸管の透過性が亢進することがわかった。またこのとき、DP受容体の刺激による腸管透過性の抑制効果は解除されていた。このことから、DP受容体の刺激による腸管透過性の抑制にムチン層が必要であることが明らかになった。
DP受容体作動薬、腸管バリア機能低下に起因する疾患に治療応用できる可能性
以上の結果から、薬物によるDP受容体の刺激は、杯細胞からのムチン放出を促進することで腸管バリアを強化することが明らかになった。DP受容体作動薬は、腸管バリア機能の低下に起因するさまざまな疾患の治療に応用できる可能性があると、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 研究成果