妊娠中のカドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガンばく露と子の形態異常の関連は?
北海道大学は10月24日、エコチル調査の8万9,887人の妊婦について、母体血中に含まれるカドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン濃度と分娩時または生後1か月の子どもの形態異常について解析した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学院生殖・発達医学講座小児科学分野の中村雄一博士課程大学院生、医学研究院生殖・発達医学講座小児科学分野の真部淳教授、大学病院の長和俊客員教授、環境健康科学研究教育センター(エコチル調査北海道ユニットセンター)の岸玲子特別招へい教授、小林澄貴客員研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pediatric Research」に掲載されている。
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
子どもの形態異常にはさまざまな要因があると考えられている。これまでに、海外の研究グループによる疫学研究では、妊娠中のカドミウム、鉛、水銀、セレンやマンガンばく露が子どもの形態異常に影響する可能性を指摘するものがある一方で、結果は一致していない。日本でも、妊婦のカドミウム、鉛、水銀、セレンやマンガンが子どもの形態異常に及ぼす影響の研究報告はある。しかし、その数は限られており、妊娠中のカドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガンばく露と子どもの形態異常との関連はよくわかっていない。
エコチル調査8万9,887人の妊婦データで解析
そこで研究グループは、妊婦の血中カドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン濃度が、生まれた子どもの形態異常に影響しているのではないかと考え、これらの関連を検討した。今回の研究では、エコチル調査参加者約10万人のデータを使用。このうち、人工妊娠中絶以外の方法で子どもを出産し、分娩時または生後1か月の子どもの形態異常のデータが存在する9万8,260人の妊婦のうち、妊婦の血中カドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン濃度の血中濃度および関連因子と考えたものに何らかの欠測データがある人を除いた8万9,887人の妊婦のデータを解析対象とした。妊婦に対する質問票から妊婦の情報を収集し、分娩時および生後1か月の診療録の内容を転記する調査票を用いて医療情報を得た。
妊婦の血中カドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン濃度に加え、子どもの形態異常との関連因子として考えられている母親の年齢、分娩数、生殖補助医療の有無、妊娠中の喫煙習慣、妊娠中の飲酒習慣、子どもの性別を考慮した研究デザインを用い、血中カドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン濃度(それぞれ対数変換したもの、またはそれぞれ四分位数で4分割したもの)と生まれた子どもの形態異常の有無との関連についてロジスティック回帰モデルを使って検討した。
母体血中マンガン濃度最低群と比較で、最高群は形態異常の子ども1.06倍
研究の結果、母体血中のマンガン濃度が最も低い第1四分位群の妊婦集団(≦12.5ng/g)と比較して、血中マンガン濃度が最も高い第4四分位群の妊婦集団(≧18.7ng/g)では形態異常で生まれた子どもは1.06倍だった。一方、血中カドミウム、鉛、水銀、セレン濃度と生まれた子どもの形態異常については、関連はなかったという。
生後1か月以降の形態異常考慮なしなど限界あり、さらなる研究必要
同研究の限界としては、妊婦のカドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン以外の化学物質による健康影響を考慮できていない点がある。また、生後1か月以降の形態異常を考慮できていない点も挙げられる。今後の課題として、妊婦の血中カドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン濃度と生まれた子どもの形態異常との関連を確認するためのさらなる研究が必要だとしている。エコチル調査では、妊婦の血中カドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン濃度以外の環境要因、遺伝要因、および社会経済要因も調べている。引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待される、と研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース