FAPへの低用量アスピリン投与の費用対効果は未検討だった
国立国際医療研究センター(NCGM)は10月24日、家族性大腸腺腫症(FAP)の患者を対象とした直径5.0mm以上の大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与による大腸がんの予防効果と費用対効果を推定したと発表した。この研究は、NCGM国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センターの齋藤英子上級研究員、京都府立医科大学分子標的予防医学の武藤倫弘教授、石川秀樹特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Medicine」に掲載されている。
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近年、一般集団を対象とした低用量アスピリン投与による大腸がん予防の費用対効果を示唆する研究は増えてきたが、大腸がんの発症リスクが高いとされるFAP患者において、低用量アスピリン投与の費用対効果を検討した研究は行われていなかった。そこで、研究グループは、FAP患者における5.0mm以上の大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与を組み合わせた治療方法について、現在のFAPの診療ガイドラインにおける現行の治療方法と比較し、シミュレーションモデルの手法を用いてその大腸がん予防効果と費用対効果を検討した。
治療パターンごとに4つのシナリオを比較したシミュレーションモデルを構築
今回の研究では、日本人のFAP患者の大腸がんリスクおよび死亡率を反映したシミュレーションモデルを構築し、1)大腸腺腫の治療をしなかった場合、2)直径5.0mm以上の大腸ポリープの積極的摘除のみを行った場合、3)大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与(100mg/日)を組み合わせた場合、4)大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術(IPAA)の4つのシナリオについて、増分費用効果比に基づき、大腸がん死亡率と費用対効果を比較検討した。
大腸ポリープ積極的摘除+低用量アスピリン投与が費用対効果優れると推定
結果として、1)大腸腺腫の治療を行わなかった場合と比較して、2)大腸ポリープ積極的摘除、3)大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与(100mg/日)、4)IPAAの3つの治療法はすべて、40年間で一人当たり平均1.82~2.24の質調整生存年(生存年数を、疾病の重さに応じて数値化した生活の質で重みづけした指標)の伸び幅をもたらすと推計された。
また、大腸がん死亡率も、1)大腸腺腫の治療を行わなかった場合に比べ、他の3つの治療法すべてで大幅な死亡率減少につながり、特に4)IPAAで死亡率の減少幅が大きいことがわかった。一方、1質調整生存年あたり5万ドルの支払い意思額を費用対効果の閾値とした場合、大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与を組み合わせた治療法が、他の治療法よりも費用対効果に優れることが示唆された。また、支払い意思額の閾値を10万ドルまで上げた場合においても、大腸ポリープ積極的摘除と低用量アスピリン投与は費用対効果に優れることが示唆された。
データ整備必要だが、FAP患者における代表性の高いデータで外的妥当性も確認
今回用いたモデルは、FAP患者における代表性の高いデータであり、FAP患者に特異的な大腸がん罹患率、臨床進行度割合、大腸がん死亡率についての外的妥当性(別に公表されている外部データとの結果の一致)が確認されている。一方、シミュレーションはさまざまな仮定の下に行った推定であり、解釈には注意が必要である。また、この研究では、日本人のFAP患者に8か月間低用量アスピリンを投与した臨床試験に基づく低用量アスピリンの効果を用いてシミュレーションを行ったが、データの限界から、より長期にわたる低用量アスピリンの効果と安全性は検討されていない。また、有害事象はシミュレーションの中で考慮しているが、アスピリン投与による出血は喫煙状況により異なる可能性がある一方で、今回は喫煙者のデータ不足により、喫煙状況別の結果が検討されていない。「今後これらの要因についてのデータが整備され次第、より精緻な推計を行う必要があると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・国立国際医療研究センター プレスリリース