医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > レトロウイルス由来遺伝子が脳のカビ感染防御にも機能すると判明-東京医歯大ほか

レトロウイルス由来遺伝子が脳のカビ感染防御にも機能すると判明-東京医歯大ほか

読了時間:約 3分2秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年10月24日 AM11:58

哺乳類はウイルス由来遺伝子を病原体への感染防御に利用

東京医科歯科大学は10月20日、機能未知のレトロウイルス由来のRTL9/SIRH10遺伝子が、哺乳類の脳におけるカビ()感染防御に重要な機能を果たしていることを突き止めたと発表した。この研究は、同大の石野史敏名誉教授(現統合研究機構非常勤講師、元難治疾患研究所エピジェネティクス分野教授)の研究グループと、難治疾患研究所未来ゲノム研究開発支援室および東海大学の金児–石野知子客員教授(元医学部教授)の研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトゲノムには、過去に感染したレトロウイルスに由来する内在性レトロウイルス(HERV)が9%存在している。長い間「ゲノムのゴミ」と考えられてきたが、21世紀の変わり目に発見されたウイルス由来のsyncytin、PEG10、PEG11/RTL1が胎盤の形成に必須な遺伝子であることが明らかになった。ヒトの遺伝子として重要な機能を持つ可能性があることから、近年ウイルス由来の遺伝子の持つ機能が注目を集めている。

研究グループは長年の共同研究により、PEG10、PEG11/RTL1を含むレトロウイルスGAG遺伝子由来の11個のRTL/SIRH遺伝子群の機能解明を進め、胎盤以外に脳の機能にも関係することを明らかにしてきた。2022年にはRTL5/SIRH8およびRTL6/SIRH3が、脳における唯一の免疫細胞であるミクログリアで発現し、細菌およびウイルスに対する防御機構として重要な役割を果たしていることを報告している。同研究により、これらがウイルス由来の遺伝子を病原体から脳を守る自然免疫のツールとして利用している事実が明らかになった。

Toll-like受容体(TLR)を中心とした自然免疫システムは、カビや細菌、ウイルスなど異なる病原体に対応した免疫反応の誘導に機能しており、広く動物界に保存されている。研究グループは、RTL9/SIRH10およびRTL5/SIRH8、RTL6/SIRH3の研究で、哺乳類がウイルス由来のGAG遺伝子を異なる病原体に対する感染防御に再利用することで、自然免疫システムに独自の防御機能を強化していることを明らかにしていた。

RTL9がミクログリア細胞のリゾゾームで発現、マウスで確認

RTL9/SIRH10遺伝子は、ヒトやマウスなど哺乳類でも真獣類と呼ばれるグループにのみ存在し、生物進化上で高度に保存されており、何らかの重要な機能を持っていると予想されていたが、遺伝子の発現量が非常に低いという問題があった。

そこで研究グループは、タンパク質の動態解析を行うため蛍光タンパク質であるmCherryを結合させたRTL9タンパク質を発現するノックイン(KI)マウスを作製し、新生仔期の脳で発現していることを明らかにした。高倍率で観察した結果、RTL9はミクログリア細胞のリゾゾームで発現することが確認できたという。

ミクログリア細胞に存在のRTL9、真菌への自然免疫反応に重要な役割

脳に真菌の細胞壁であるzymosanを注入すると、20~30分後にはRTL9の局在と一致したところにシグナルが観察され、60分後には分解され消失する。しかし、この分解反応はRtl9ノックアウト(KO)マウスでは起こらないことから、RTL9がzymosanの分解反応に必須の機能をしていることを確認した。これらの結果から、RTL9タンパク質は脳のミクログリア細胞に存在し、カビに対する自然免疫反応に重要な役割を果たす遺伝子であると結論付けられた。

脳に対するカビの感染は重篤な疾患を引き起こし、それにはミクログリアの機能が大きく関係していることが知られている。この遺伝子は哺乳類の脳にとって重要な保護機能を持ち、そのために進化上、高く保存されていると考えられる。

ヒトを遺伝子から理解するには、機能未知のウイルス由来遺伝子の解明が必要

レトロウイルスから獲得した遺伝子が、哺乳類に何をもたらしたのかという点がRTL/SIRH遺伝子研究全体のテーマだが、今回の研究により、3つのRTL/SIRH遺伝子が細菌、ウイルス、真菌に対する脳の自然免疫に重要な機能を果たしていることが明らかになった。哺乳類の進化において、これら病原体に対する防御機能が非常に重要な位置を占め、その強化のためにレトロウイルス由来の遺伝子を利用していたと考えられる。

「これは、レトロウイルスGAG由来の遺伝子情報からは全く予想外のことで、その機能を解析することで初めて明らかになった事実だ。ヒトおよび哺乳類のゲノムには、機能未知のウイルス由来の遺伝子候補がまだ多数残っている。ヒトを遺伝子から理解するためには、この未知領域へ踏み込んでいく必要があることが、本研究で示された」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 視覚障害のある受験者、試験方法の合理的配慮に課題-筑波大
  • 特定保健指導を受けた勤労者の「運動習慣獲得」に影響する要因をAIで解明-筑波大ほか
  • 腎疾患を少ないデータから高精度に分類できるAIを開発-阪大ほか
  • ジャンプ力をスマホで高精度に計測できる手法を開発-慶大ほか
  • I型アレルギーを即座に抑制、アナフィラキシーに効果期待できる抗体医薬発見-順大ほか