高血圧と動脈スティフネスの強い結びつきから脳小血管病が生じる?
琉球大学は10月17日、動脈の硬さ(スティフネス)の指標である脈波伝播速度(PWV)が血圧よりも脳小血管病との関連が強いことを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学講座の石田明夫准教授、宮城朋医員、琉球大学病院の大屋祐輔病院長、沖縄県健康づくり財団の新里朋子医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」にオンライン掲載されている。
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脳小血管病は脳内の微小な血管の硬化などによって生じ、自覚症状がなくても脳MRIで検出することができる。脳小血管病は将来的な脳卒中や認知症の発症予測因子と考えられており、加齢や高血圧で増加することがわかっている。大きな動脈が硬くなり伸展性を失う「動脈スティフネス(動脈壁硬化)」が進行すると影響が末梢の微小血管に及ぶため、動脈スティフネスが脳小血管病と関連する可能性も知られている。動脈スティフネスと高血圧は関連が強く、動脈が硬くなると血圧が上昇し、血圧が高くなると動脈はさらに硬くなるという「動脈スティフネス-高血圧」が密接に結びついた悪循環に陥り、その結果、脳小血管病が生じると考えられていた。しかし実臨床では、動脈の硬さの指標であるPWVと血圧との関係において、正常血圧でもPWVが高い症例や高血圧でもPWVが低い症例が存在する。そこで研究グループは、血圧と動脈スティフネスの脳小血管病に与える影響の違いを解析した。
脳卒中の既往がない1,894人を対象に、PWVと脳小血管病との関連を調査
2013年から2020年に沖縄県健康づくり財団で脳ドックを受け、PWVを測定した脳卒中の既往がない1,894人を対象に観察的横断研究を行った。脳MRIで白質病変、微小出血、ラクナ梗塞、拡大血管周囲腔を評価し、いずれかを有する場合を脳小血管病ありとした。正常血圧(120/80mmHg)とPWV(14.63m/s)を基準値とし、対象者を1)血圧/PWV両方低値群、2)血圧のみ高値群、3)PWVのみ高値群、4)血圧/PWV両方高値群、の4群に分けて脳小血管病との関連を調べた。
血圧の高低関係なくPWV高値の2群で脳小血管病の有病率55%以上
調査した1,894人のうち、718人(38%)が脳小血管病を有していた。脳小血管病の有病率は、1)血圧/PWV両方低値群22%、2)血圧のみ高値群24%、3)PWVのみ高値群56%、4)血圧/PWV両方高値群55%で、血圧にかかわらずPWV高値の2群で高いことがわかった。この結果は、年齢、性別、従来の危険因子などで調整した多変量解析でも同様だった。サブグループ解析では、60歳未満の対象者において特にPWVと脳小血管病の関連が強いことがわかった。
高血圧対策が中心だった脳卒中予防、新たな治療戦略の開発が必要
この研究の結果から、動脈スティフネスが脳小血管病に与える影響は血圧よりもインパクトが大きい可能性が示された。これまでは高血圧対策が中心であった脳卒中や認知症発症の予防には、動脈スティフネスを治療ターゲットとした新たな治療戦略の開発が必要であると考えられる。また動脈スティフネスは、特に比較的若い危険因子の少ない人で脳小血管病を早期に発見できるマーカーになる可能性がある。さらに、動脈スティフネスの治療を行うことで長期的に脳卒中や認知症の発症を減らせる可能性があり、ひいては医療費の削減につながることが考えられる。「本研究に基づいて、脳卒中や認知症の早期診断法や新たな治療法の開発を進めていく」と、研究グループは述べている。
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・琉球大学 研究成果