デュシェンヌ型筋ジストロフィーのエクソン・スキップ治療、変異形式に応じた治療が必要
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は10月17日、開発を進めている、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を対象としたデュアルターゲティング核酸医薬「NS-089/NCNP-02」(一般名:brogidirsen)の、医師主導試験の元となる非臨床試験データを論文発表した。この研究は、同センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部と日本新薬株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy Nucleic Acids」に掲載されている。
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DMDは、男児に発症する、もっとも頻度の高い遺伝性筋疾患で、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の細胞の骨組みを作るタンパク質(ジストロフィンタンパク質)の遺伝子に変異が起こることで、正常なタンパク質が作れなくなり、筋力が低下してやがて死に至る重篤な疾患である。現在、その進行を遅らせる目的でステロイド剤による治療が行われているが、それ以外に有力な治療法は存在せず、新たな治療法の開発が必要とされている。
DMDで行われているエクソン・スキップ治療は、アンチセンス核酸と呼ばれる短い合成核酸(DNAの様なもの)を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA)のうち、タンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)ことで、アミノ酸読み取り枠のずれを修正(イン・フレーム化)する治療法である。正常なジストロフィンタンパク質に比べると、その一部が短縮するものの、機能を保ったジストロフィンタンパク質が発現し、筋機能の改善が期待できる。また、この治療の対象となるエクソンは、患者の変異形式に応じて異なる。
2か所の離れた塩基配列を標的とする核酸医薬、エクソン44スキップが対象
NS-089/NCNP-02は、エクソン44スキップを対象とし、新規高活性配列探索法を用いて開発したデュアルターゲティング・アンチセンス核酸医薬で、2か所の離れた塩基配列を標的とする。従来の1か所の連続した塩基配列を標的とするアンチセンス核酸医薬とは異なる設計方法である。
研究グループはNS-089/NCNP-02の有効性を調べるため、エクソン44スキッピングにより治療可能な遺伝子変異を持つ、DMD患者由来の筋細胞にNS-089/NCNP-02を投与することで、エクソン44スキッピングが生じ、ジストロフィンタンパク質の発現が誘導されることを確認した。さらに、NS-089/NCNP-02をカニクイザルに静脈から全身投与したところ、骨格筋と心筋でエクソン44スキッピングが誘導されることを確認した。
医師主導治験では良好な結果、現在第2相試験の準備中
今回発表した論文(非臨床試験)で見出した配列を用いて、エクソン44スキップにより治療可能なジストロフィン遺伝子の欠失が確認されているDMD患者を対象として医師主導治験が実施された。医師主導治験では、6例のDMD患者に対してNS-089/NCNP-02を静脈から全身投与することにより、世界で初めてヒトを対象に平均15%以上のジストロフィンタンパク質の発現回復に成功し、運動機能への有効性が十分に期待できる結果が得られた。
NS-089/NCNP-02は、現在日本および米国において第2相試験の準備中である。米国では米国食品医薬品局(FDA)から2023年6月に希少小児疾患指定を、2023年7月にブレイクスルーセラピー指定とオーファンドラッグ指定を受理している。
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