加齢性難聴で転倒発生リスクが高いのはなぜか?
東京都健康長寿医療センター研究所は10月18日、聴覚情報が制限された場合、障害物に近づく際の歩幅の調整が乱れ、障害物の跨ぎ越し動作が大きくばらつくようになることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター研究所の桜井良太研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Behavioural Brain Research」オンライン版に掲載されている。
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加齢性難聴は、転倒発生のリスクを高めることが数多くの疫学研究から報告されてきた。しかし、なぜ難聴によって転倒が多く引き起こされるのかといった背景メカニズムについては明らかではない。
若年者対象、疑似的な難聴環境で障害物跨ぎ越し時の動作を調べる実験
研究グループは、若年者を対象に、実験により疑似的に難聴環境を作り出し、転倒が起こりやすい動作である障害物跨ぎ越し時の動作を調べ、加齢性難聴が転倒リスクを引き上げる背景について検討した。この際、聴覚が障害物回避行動に果たす役割をより明確にするため、障害物跨ぎ越し動作において有力な感覚情報源である足元の視覚情報も、合わせて実験的に操作することとした。
実験時の聴覚制限条件において、対象者はイヤーマフを装着。この際、比較条件として穴の開いたイヤーマフを用いた(イヤーマフを装着している点は聴覚制限条件と同様だが、音が聞こえるという点で異なる)。足元の視覚情報制限条件では、実験参加者は足元が見えなくなるフレームを持ち、比較条件では足元が見えるフレームを持った(フレームを持っているという点では視野制限条件と同じだが、下肢が確認できるという点で異なる)。実験では、参加者は6.5m先の障害物(15cm)に近づき跨ぎ越し、その際の歩き方や足が障害物を超えるときの足上げの高さ(以下、クリアランス)について測定した。
聴覚情報+下肢視覚情報制限、障害物接近時の歩行ばらつき「大」
実験の結果、足元の視覚情報が制限された場合は先導脚のクリアランスが統計学的に有意に高くなった。一方、聴覚情報が制限された場合は先導脚のクリアランスのばらつきが統計学的に有意に大きくなった。
また、障害物接近時の歩行動作では、足元の視覚情報と聴覚情報の両者が制限された場合に、統計学的に有意に障害物接近時の歩行(歩幅)のばらつき(変動係数)が大きくなることが明らかとなった。このような運動の変動性増加は、転倒のリスクを高める一因となる。実際に聴覚情報制限によって、障害物回避が困難になる例が確認されている。
聴覚情報、運動を安定させる働きを示唆
今回の研究成果により、聴覚情報が遮断されることで、一連の障害物回避動作のばらつきが大きくなることが明らかとなり、その傾向は足元が見えない状況下で顕著に現れることがわかった。この結果から、聴覚情報には運動を安定させる(動作のばらつきを統制する)働きが示唆される。このような聴覚情報制限にともなう運動の変化が加齢性難聴者の転倒リスクを高めていると考えると、「耳の聞こえにくさ」に対する早期かつ適切な対応が傷害予防の観点から重要であると言える、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース