SIR、都道府県で差がある理由は?
新潟大学は10月17日、特定健診実施率が高い都道府県は性年齢を調整した透析導入率(標準化透析導入比、Standardized incidence ratio:SIR)が低く、40~74歳における慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)の有病率も低いという有意な関連が示されたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授、同研究科腎・膠原病内科学分野の成田一衛教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical and Experimental Nephrology」に掲載されている。
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日本国内における透析患者数は人口100万人あたり2,749人と、台湾(3,772人)、韓国(2,789人)に次いで世界で3番目に多い数字だ(2020年時点)。日本のSIRは、近年、低下傾向にあるものの、まだ世界で6番目に高く、人口高齢化の影響によりさらなる透析導入患者数の増加が危惧されている。新たな国民病ともいわれるCKDの重症化予防を徹底し、新規透析導入患者数の減少を図るために、SIRの更なる低下が求められている。
SIRは都道府県によって差があり、全国平均よりも高い所もあれば、低い所もある。なぜ差があるのかの理由を明らかにすることは、都道府県の差を小さくし、ひいては日本全体のSIR低下の効果的な対策につながることが期待される。
構造方程式モデリングで検証
特定健診実施率にも都道府県差があることから、今回の研究では、特定健診受診率の高い都道府県はSIRが低いという仮説を立て、構造方程式モデリングという手法で検証した。公表されているデータを用いて、2020〜2021年の都道府県別SIRを計算。分子となる性年齢階級別透析導入患者数は日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」から、分母となる一般住民の男女別・年齢階級別人数はe-Stat(政府統計の総合窓口)から、それぞれ公表されている数字を用いた。都道府県別により性年齢の分布が異なるため、間接法を用いて性年齢を調整し、全国のSIRを1としたSIRを求めた。
都道府県別特定健診実施率は、厚生労働省が公表している2019年データを用いた。関連する要因として、40〜74歳におけるCKD有病率と腎臓内科医の割合も都道府県別に計算。CKD有病率は2019年のNDB Openデータを用いて、以前に報告した方法(尿蛋白が1+以上または推算糸球体濾過量(estimated Glomerular Filtration Rate:eGFR)が60mL/分/1.73m2未満をCKDと定義し、特定健診受診者(40〜74歳)のCKD有病率と人口から都道府県のCKD有病率を推計)で計算した。腎臓内科医割合は、2020年の医師・歯科医師・薬剤師統計を用いて、分子を主たる診療科が腎臓内科の医師数、分母を医療施設従事医師数として都道府県別に割合を計算した。
40〜74歳CKD有病率、最低と最高の都道府県で約2倍差
研究の結果、2019年の特定健診実施率は全国で55.3%だった。低い都道府県では44.2%、高い所では65.9%と、都道府県差を認めた。SIRも都道府県により異なり、SIRは0.73(全国平均よりもSIRが27%低い)から1.34(全国平均よりもSIRが34%高い)と、都道府県差を認めた。40〜74歳でのCKD有病率は全国で16%(約6人に1人がCKDに相当)であり、都道府県によって11%から20%と、最も低い所と高い所で約2倍の差を認めた。腎臓内科医割合は全国1.7%で、都道府県により0.2%から2.3%と約10倍の差があった。
特定健診実施率「高」都道府県はSIR「低」、両者には有意な負の相関
特定健診実施率が高い都道府県はSIRが低く、両者には有意な負の相関を認めたという。続いて、特定健診実施率が高い都道府県では40〜74歳におけるCKD有病率も有意に低く、一方、腎臓内科医割合が有意に高いという結果だった。構造方程式モデリングでは、特定健診実施率はSIRに有意な負の関連を示した。また、特定健診実施率はCKD有病率へも有意な負の関連を示した。腎臓内科医割合はSIRへの有意な直接効果を認めなかったが、健診実施率を通じた有意な負の間接効果を認めた。同モデルは高い適合度を示し、都道府県におけるSIR差の14%が同モデルで説明可能と考えられた。
特定健診実施率を高めることで、SIR低下に期待
今回の研究により、特定健診受診率の高い都道府県は、性年齢を調整したSIRが低く、CKD有病率(40〜74歳における率)も低いことが明らかになった。健診未受診は透析治療を必要とする末期腎不全に至るリスクが高いことは、大阪府寝屋川市のコホート研究でも示されており、今回、この関係が都道府県レベルでも認められることを示した。また、同研究成果から、特定健診実施率を高めることで、SIRの低下が期待できる可能性が示された。透析治療を必要とする末期腎不全を予防するために、腎臓病の早期発見は重要だ。特定健診は、腎臓病の早期発見を目的としたものではないが、生活習慣や肥満、高血圧症、糖尿病などCKDの危険因子を早期に発見することで、CKDを含めた生活習慣病の予防・改善に繋がることが期待される。一方、同モデルでは都道府県におけるSIR差の14%しか説明できず、他にも理由があると考えられる。今後さらに研究を進め、なぜ都道府県によりSIRに差があるのかの理由を明らかにしていき、都道府県差を小さくし、ひいては日本全体のSIR低下に効果的な対策へつなげていきたい、と研究グループは述べている。
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・新潟大学 プレスリリース