低周波超音波治療が筋肉を再生するメカニズムは不明だった
広島大学は10月11日、低周波超音波治療が筋肉を再生することと、その再生メカニズムの詳細を明らかにしたと発表した。この研究は、同大原爆放射線医科学研究所の東幸仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Sports Medicine」に掲載されている。
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現在、低周波超音波治療器が、保険診療として難治性骨折の治療に用いられている。研究グループは長年に渡って低周波超音波治療が血管再生に有効であることを、基礎研究と臨床研究で報告している。また、血管再生用の低周波超音波治療器を作製して特許も取得しており、低周波超音波治療による血管再生を研究する過程で、筋肉再生にも有効であることがわかっている。
長期臥床やサルコペニア、寝たきりを要因とする筋肉量の低下による「ロコモーティブ症候群」に介入することは大変重要だ。低周波超音波治療は、筋肉量の維持に安全かつ簡単に施行でき、有効な手段となる可能性がある。そこで今回、低周波超音波治療による筋肉再生への有効性と、低周波超音波治療による筋肉再生メカニズムの解明のため、研究を行った。
インテグリンとERK1/2を介しPax7を活性化、MyoD/ミオジェニン発現増強で筋肉再生
研究では、マウスの筋肉損傷モデルを用いて、低周波超音波治療が筋肉再生するメカニズムを詳細に調べた。その結果、骨格筋の再生は骨格筋の幹細胞に発現しているPax7因子が筋肉損傷などで刺激されると活性化し、筋分化制御因子であるMyoDを発現することが判明。また、活性化された筋肉幹細胞は増殖して数を増やしていき、筋分化決定因子「ミオジェニン」を発現することで筋細胞となり、筋線維と融合して筋肉が出来上がることがわかった。
詳細な解析により、低周波超音波治療はインテグリンとERK1/2を介してPax7を活性化し、MyoDとミオジェニンの発現を増強させることで、筋肉再生をもたらすことが明らかになった。
高齢者の筋肉量低下予防、サルコペニアの筋肉量回復、寝たきりの人の筋肉量維持に有効
今回の研究により、低周波超音波治療が「外傷などでの筋断裂や筋損傷の早期回復に有効な治療法となる」だけではなく、「臥床中に低周波超音波治療を併用することにより四肢筋肉量低下の予防・治療が可能になる」こと、「サルコペニアを呈する人の筋肉量回復、前サルコペニア状況にある方の筋肉量の減少予防につながる」こと、さらに「寝たきり老人の筋肉量維持に、安全かつ簡単に施行できて、有効な手段となる可能性」が示された。
筋肉再生で使用する際も医療従事者の監督不要、自宅で簡便に照射を行える可能性
実際に、難治性骨折や血管再生に使用されている治療器は操作が非常に簡便で、医療従事者の監督下で使用する必要がなく、照射時間も1日20〜30分で、自宅で行うことができる。
「今回の研究結果からも、筋肉再生の際も全く同じ方法で実施できると考えられる。今後は、さらに機能の良い低周波超音波治療器を開発し、商品化も検討していく予定だ」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果