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花粉症の眼症状、新たな治療標的は「杯細胞」-順大

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2023年10月13日 AM10:35

眼表面付着から短時間で症状出現の花粉症、その仕組みは?

順天堂大学は10月12日、眼の表面に存在する杯細胞が花粉の殻に反応してGoblet cell associated antigen passage(GAP)という構造を速やかに形成し、アレルゲンの取り込みに重要な働きをしていることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの安藤智暁准教授、北浦次郎教授、奥村康センター長ら、および同大学医学部附属浦安病院眼科の木村芽以子助手、大学院医学研究科眼科学の海老原伸行教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

花粉症の症状は、花粉がヒトの表面に付着して数分〜30分以内に出現し始める。なぜそれほど短時間に反応が生じるかについては、明らかになっていない。眼や鼻などの表面は粘膜で覆われており、皮膚より物質を通しやすい性質を持っている。しかし、アレルゲンとなる花粉などのタンパク質は分子サイズが大きいため、普段は粘膜のバリア機能によって阻まれ、深部に到達する量はわずかだ。そのため、何らかのバリア機能の破綻が起きることにより、アレルギーの症状が出やすくなると考えられてきた。一方、これまでの研究グループによる、マウスを用いた実験では、花粉のエキスを点眼しただけでは花粉症がほとんど発症せず、花粉の殻と一緒に点眼することによって花粉症が生じることが明らかになっていた。そこで今回研究グループは、花粉の殻が粘膜に働きかけ、アレルゲン通過を促すのではないかと仮説を立て、検証した。

眼に「殻付き」花粉付着直後、杯細胞が能動的にアレルゲンを取り込む

今回の研究では、アレルゲンを蛍光色素で染色し、粘膜組織内でどのように分布するかを可視化した。アレルゲンのみを点眼した場合と、花粉の殻とともに点眼した場合とを比較。その結果、花粉の殻とともに点眼した場合には、杯細胞が細胞内に大量にアレルゲンを取り込み、その直下の免疫細胞に受け渡している様子が観察された。この現象は花粉の殻と蛍光アレルゲンを点眼してから5分以内に観察されたことから、杯細胞を通じた能動的な取り込みが、アレルギー症状発症までの時間が早いことと関連している可能性が考えられる。

そこで、マウスを用いた花粉症モデル実験において、花粉の点眼後に眼を洗ってみたところ、10分後に洗眼したマウスと、洗眼しなかったマウスとでは、花粉症の発症レベルにほとんど差がないことが判明した。つまり、花粉が眼に付着してすぐに、杯細胞を介したアレルゲン取り込みが行われており、その後に花粉がついたままであるかどうかはほとんど影響がないということがわかった。

普段は見られない眼のGAP、花粉殻の刺激で大量に生じアレルギー反応促進

このような杯細胞を通じた物質の取り込み経路はGAPと呼ばれ、他の研究グループによって腸管で機能していることが報告されてきた。しかし、腸管でのGAP形成は免疫寛容などに働くとされており、自然発生的に形成される。これに対し、眼で生じるGAPは普段はほとんど見られず、花粉の殻の刺激によって大量に生じ、アレルギー反応を促進することが明らかになった。

三叉神経麻痺でGAP形成なし、杯細胞の粘液放出とGAP形成は別信号で制御

さらに、眼におけるGAP形成の仕組みを調べた。その結果、眼の表面で触覚などの感覚を司る三叉神経が重要な役割を担っており、神経を麻痺させるとGAPが形成されなくなることが判明。杯細胞からの粘液放出を促すアセチルコリン刺激では、眼のGAP形成は見られないことから、粘液放出とGAP形成は別々の信号で制御されていることもわかった。

眼を保護しながらアレルギー抑制の方法探索へ

今回の研究では、眼に付着した花粉からのアレルゲン取り込みが、杯細胞のGAP形成によって素早く能動的に行われていることが明らかになった。さらに、杯細胞が粘液を放出して眼の表面を保護する作用と、GAPを形成してアレルギー発症に関わる作用は、別々の信号によって制御されていることも判明。今後、この信号の使い分けを解明し、眼を保護しながらアレルギーを抑制する方法の探索や、鼻など他の粘膜におけるGAPの役割の解明など、花粉症の予防や治療につながるように、さらなる研究を行っていく、と研究グループは述べている。

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