構造的・機能的な異常あり・心不全症状なしの「ステージB」、Cへの悪化阻止が重要
東北大学は10月11日、第二次東北慢性心不全登録研究に登録された心不全ステージBの患者のデータを解析し、心胸比の経時的な変化を評価した結果、登録時CTR>53%かつ、年間のCTRが0.5%ずつ上昇する患者は、心不全を発症する危険が高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田聡教授、後岡広太郎准教授ら、NECソリューションイノベータ株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Cardiology Heart and Vasculature」にオンライン掲載されている。
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心不全は世界的に主要な死因であり、予防が重要だ。心臓に構造的・機能的な異常を認めるものの心不全症状がない状態をステージBと呼ぶ。次の段階のステージCに悪化させない戦略が必要で、ステージBからCへの予測が可能かどうかさまざまな研究が行われている。その中で胸部レントゲン写真は健診で使用される程安全性が高く、臨床的には心臓病の初期評価に必須の検査だ。これまでの研究では、胸部レントゲン写真で測定されるCTR(肺の幅に対する心臓の幅の割合)は心臓の機能とはあまり関係がないと言われていた。そのため、米国の心不全ガイドラインでは無症状の患者へ胸部レントゲン写真を撮影することに対して、特別な推奨は行われていなかった。
ステージBからの心不全発症群/発症なし群、CTRの経時的な変化を評価
今回、研究グループは、東北大学が主催する第二次東北慢性心不全登録研究(Chronic Heart Failure Analysis and Registry in the Tohoku District-2:CHART-2)に登録されたステージBの患者5,126人のデータを解析。心不全を発症した群(ステージCに進行した群)と、心不全発症しなかった群のCTRの経時的な変化を評価した。
CHART-2は、東北大学循環器内科が実施中の心不全患者の予後に関する多施設前向き観察研究。2006~2010年まで、のべ1万219人の患者登録を行い、2021年まで追跡調査が行われた国内最大の慢性心不全の疫学研究だ。
登録時CTR>53%かつ年間CTR0.5%ずつ上昇、心不全発症リスク「高」
研究の結果、既報と同様にCTRと心臓超音波検査による左室拡張末期径(LVDD)の相関関係は低く、LVDDは2群間で臨床的に大きな違いは認めなかった(心不全発症群48mm、心不全未発症群50mm)。
登録時CTR>53%かつ、年間のCTRが0.5%ずつ上昇する(心陰影が拡大していく)患者は、その後に心不全を発症する危険が高いことがわかった。一方、心不全を発症しなかった群は、登録時のCTRの平均は50%であり、年間0.1%程度しか増加しなかったことが判明した。
心不全発症高リスク群同定、早期治療介入などに期待
今回の研究成果より、心不全ステージBにおいても、胸部レントゲン写真によりCTRの経時変化を見ていくことで、心不全発症を予測できる可能性が示唆された。今後、健康診断での胸部レントゲン写真で経時的にCTRを比較することや病院・クリニックで撮影された胸部レントゲン写真のCTRを経時的に調べることで、心不全発症高リスク群を同定して、早期に治療介入する等、新たな診断・治療戦略につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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