自己組織か人工素材を用いる血管の修復術、どちらにも問題点があった
東京医科大学は10月11日、低酸素環境で周期的に細胞に高い圧力をかけて細胞を培養すると、細胞と細胞、細胞と細胞外マトリックスおよび、細胞外マトリックス同士が強く結合することで、三次元の組織体を作製できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大細胞生理学分野の中村隆助教、横山詩子主任教授、横浜市立大学大学院医学研究科産婦人科学生殖成育病態医学の小嶋朋之大学院生、宮城悦子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Acta Biomaterialia」に掲載されている。
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現在、血管の修復術を必要とする場合、患者自身の血管などの自己組織を用いるか、人工素材のグラフトを用いる。しかしながら、自分自身の組織が使えない場合も多く、人工素材の血管は感染の問題などのリスクがある。また、人工素材は成長とともに大きくならないことから、先天性心疾患では再手術が必要になる場合がある。そこで、生体材料のみから作られる人工血管の開発が試みられてきたが、強度が低かったり、作製工程が複雑で長期間かかったりするなど、まだ問題点が多くある。
臍帯血管細胞から人工血管を開発、低酸素+周期的加圧で三次元的な組織構築に成功
今回の研究では、移植材料として赤ちゃんの誕生とともに処分される臍帯(へその緒)血管の細胞を用いて、先天性心疾患の患者に使える人工血管の開発を目的とした。血管は生体内では常に血圧がかかっており、特に子宮内が低酸素環境であることから、細胞から組織が作られるときには、低酸素環境で周期的に圧力がかかることが重要なのではないかと着想した。独自に開発した培養装置で加圧培養すると、細胞間結合に重要なN-カドヘリンの細胞膜での発現、細胞と細胞外マトリックスを結合させるインテグリンα5β1、コラーゲン産生および、コラーゲンを架橋して線維形成を促すリシルオキシダーゼの発現を増加させることができ、その結果、細胞から三次元構造をもつ血管様の組織が作製できることが示された。この培養法により、細胞本来の機能を引き出すことで、細胞と細胞、細胞と生体由来の細胞外マトリックス、細胞外マトリックス同士の三次元的な結合が短期間で構築されることが明らかとなった。さらに、この細胞シートは血圧に耐えられる強度があり、動物への移植で血管の長期開存が確認された。
薬剤などの添加物なしで組織作製可能な方法、血管の細胞以外にも応用できる可能性
細胞のみから、薬剤やタンパク質などの添加物なしに組織を作製する、今回の研究のシンプルな方法を用いることで、血管の細胞以外、例えば線維芽細胞でも組織を作製できる可能性があることが明らかとなっている。「今後の研究でさらに検証する必要があるが、人工素材を用いない移植材料として、血管やその他の疾患への利用が期待される」と、研究グループは述べている。
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