ノンアルコール飲料が飲酒量にどのような影響を与えるのかは未解明
筑波大学は10月5日、ノンアルコール飲料の提供で飲酒量が減少することを世界で初めて実証したと発表した。この研究は、同大医学医療系の吉本尚准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
過剰なアルコール摂取は世界的な公衆衛生の問題だ。世界保健機関(WHO)をはじめとするいくつかの報告では、過度の飲酒はアルコール依存症などの健康問題を引き起こすだけでなく、家庭内暴力や飲酒運転による交通事故など、他の深刻な問題にもつながることが指摘されている。また、国連が掲げるSDGsの17カテゴリのうちの14カテゴリに関連している。
日本では、男性で40g/日以上、女性で20g/日以上の純アルコール摂取量(以下、飲酒量)を生活習慣病のリスクを高める飲酒量と定義している。2019年には2010年と比較して、上記の量を飲酒する人の割合は、男性では増減がなく、女性では有意に増加したと報告されている。厚生労働省による「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の重要な目標の一つは、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒者を減らすことであり、達成のためには、さらなる対策が必要だ。
これまで世界で議論されてきた対策の一つに、アルコールテイスト飲料、いわゆるノンアルコール飲料の利用がある。これらはアルコール飲料の代替品として使われることが多いとされるが、「ノンアルコール飲料が飲酒量にどのような影響を与えるのか」に関する研究データはこれまで存在しなかった。
日常的に飲酒しノンアルコール飲料使用が月1回以下の男女123人で検証
研究グループは、アルコール依存症の患者、妊娠中・授乳中の人、過去に肝臓の病気と言われた人を除いた20歳以上で、週に4回以上飲酒し、その日の飲酒量が男性で純アルコール40g以上、女性で同20g以上、ノンアルコール飲料の使用が月1回以下の参加者を募集し、集まった123人(女性69人、男性54人)を研究対象とした。参加者の年齢分布は22~72歳までで、平均年齢は47.5歳だった。
参加者は、ノンアルコール飲料を提供する介入群と対照群に無作為に分けた。介入群には12週間にわたり、4週間に1回(計3回)ノンアルコール飲料を無料で提供した。両群とも、アルコール飲料の入手と飲酒に関しては特に制限することはなく、自由に日々を過ごすよう指示し、介入から20週間、毎日アルコール飲料とノンアルコール飲料の摂取量を記録した。
介入群で飲酒量減、摂取するアルコール飲料がノンアル飲料に置き換わった可能性
介入開始前からの飲酒量は、介入開始4週目の時点で、介入群が対照群よりも低値を示し、第12週時点での1日量で見ると、対照群では飲酒量は平均2.7g減少した一方、介入群では平均11.5g減少するとともに、ノンアルコール飲料は1日平均314.3mL摂取されていた。
12週目のノンアルコール飲料摂取量と飲酒量の介入前からの変化量の関係についてスピアマン順位相関係数を算出したところ、介入群にのみ有意な負の相関関係が認められたことから(ρ=-0.500、p<0.001)、介入群では「アルコール飲料がノンアルコール飲料に置き換えられて摂取された可能性」が考えられた。
20歳未満やアルコール依存症への影響を考慮しつつ効果を追加検証の予定
今回の研究成果により、ノンアルコール飲料が減酒のきっかけになる可能性があることが明らかになった。アルコール摂取を減らすための有効性が科学的に検証された方法が明らかになることで、過剰なアルコール摂取をしている個人への介入や、政策立案などを通して地域社会への介入が可能になると期待される。
「今後はノンアルコール飲料のアルコール摂取量低減に対する利用効果を高める方略について検討するとともに、ノンアルコール飲料摂取がどんな集団により効果的なのか、どれくらい効果が持続するのかを追加検証していく予定だ。また、今回対象に含まれなかった20歳未満の人や、アルコール依存症の人への影響についても考慮する必要がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL