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膵臓病の線維化・修復、膵星細胞が重要な役割の可能性-名大ほか

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2023年10月10日 AM10:37

線維芽細胞はどこからやってきて、どのように病気に関連?

名古屋大学は10月6日、膵臓に存在する膵星細胞が、慢性膵炎や膵がんなどの膵臓病における線維化、および膵臓の修復に重要な役割を担っていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の安藤良太研究員、榎本篤教授、藤田医科大学国際再生医療センターの髙橋雅英センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Pathology」電子版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性膵炎や膵がんなどの膵臓病では、線維化が生じる。線維化とは、膵臓を構成する上皮細胞(消化酵素をつくる腺細胞やインスリンなどをつくる内分泌細胞)のまわりにある間質に、コラーゲンなどの物質がたまっていき、膵臓が硬くなる現象だ。この現象は、慢性膵炎や膵がんなど重大な膵臓病において、病気の進行をもたらし、さらには治療に対する抵抗性を強めてしまうことが知られている。研究グループは、線維化に着目して、がんなどの病気を研究してきた。線維化の直接の原因となる線維芽細胞は、健常な膵臓にはほとんど存在しない。慢性膵炎や膵がんになると、線維芽細胞が出現して、コラーゲンなどの物質を過剰につくり出し、膵臓に線維化をもたらす。一方で、線維芽細胞がどこからやってきて、どのようなメカニズムで病気に関わっているのか、未解明な点が多く残されている。

膵星細胞の新規マーカーとして膜タンパク質メフリンに着目

近年、膵星細胞とよばれる間質細胞に、膵臓の線維化との関わりを示唆する報告が相次ぎ、注目を集めている。これまでの膵星細胞研究では、体から膵臓の一部を採取し、ばらばらにしてから、実験室で培養した膵星細胞を使ってさまざまなデータが収集されてきた。しかし、膵星細胞の働きをより正確に知るためには、実験室で培養した膵星細胞を調べるだけではなく、膵臓をそのままの状態で観察、解析する実験を行うことも必要だ。そのためには、多くの細胞が混在する膵臓の中で、膵星細胞を特定するための目印(マーカー)が必要となる。

今回、研究グループは、膵星細胞の表面に存在する膜タンパク質メフリン(Meflin、遺伝子名:Islr)に着目。この膜タンパク質をマーカーとして使うことで膵星細胞にアプローチした。そして、膵星細胞の形や性質、働き、とくに線維化との関わりを探ろうと考えた。

膵星細胞は主に膵臓内毛細血管に沿って分布、長い細胞突起が毛細血管に密着

最初に、メフリンが、膵星細胞に存在することを確かめた上で、膵臓を構成するそのほかの細胞、例えば消化酵素やホルモンなどをつくる上皮細胞、血管の細胞などには存在しないことを確認。すなわち、メフリンをマーカー(目印)として、膵星細胞を特定することができるということだ。

この新しい膵星細胞マーカーを使って、実験を行った。まず、膵星細胞の分布や形態を調べた。これは、遺伝子組み換えマウスを利用して、メフリンを持つ細胞だけに蛍光タンパク質を持たせることで、膵星細胞を蛍光観察するという方法を使っている。このマウスの膵臓に、組織透明化を使用して、膵臓での膵星細胞を3Dで観察した。すると、膵星細胞は主に膵臓内の毛細血管に沿って分布しており、その長い細胞突起が毛細血管に密着していることが示された。

膵臓に線維化をもたらす線維芽細胞、一部に膵星細胞の子孫

次に、慢性膵炎や膵がんのマウスで、メフリンを目印に、膵星細胞の子孫の細胞がどうなったかを調べる系譜細胞追跡を実施。その結果、膵臓に線維化をもたらす線維芽細胞の一部が、膵星細胞の子孫であることがわかった。過去の研究で、実験室で培養した膵星細胞を使った実験により膵星細胞が線維芽細胞に変化しうることはわかっていたが、今回の研究により、実際の動物の生体内で、この現象を証明することができた。

膵星細胞、 3産生で細胞増殖サポートの可能性

さらに、膵星細胞が、病気の膵臓を修復しようとする働きを有する可能性を示す、2つの重要な知見が得られた。1つ目は、慢性膵炎のマウスで、メフリンを目印として使い、膵星細胞を人為的に無くしてしまう細胞枯渇実験を行ったところ、線維化がより強くなることがわかった。この結果は、膵星細胞が線維化の原因である線維芽細胞を生み出すという働きと一見矛盾するように見えるが、膵星細胞や線維芽細胞の一部が、病態の経過の中で、ある時期には線維化を抑制する役割を持っている可能性があることを示しており、今後の研究展開が期待される。

2つ目は、膵星細胞が産生する物質R-spondin 3に着目。R-spondin 3は、細胞増殖刺激の1つWntシグナルを強化する物質だ。慢性膵炎では、炎症による破壊から回復するために上皮細胞が増殖しようとするが、膵星細胞を人為的になくすと、この細胞増殖が妨げられることがわかった。このことから、膵星細胞はR-spondin 3を産生して、細胞増殖をサポートしている可能性があると考えることができるとしている。

膵臓病の線維化メカニズム解明、新たな治療戦略提供に期待

今回の研究成果は、膵臓病の病態に深く関わっている膵星細胞にアプローチするための重要な手がかりとなる可能性がある。膵星細胞の研究を通して、膵臓病における線維化のメカニズムを解き明かし、将来的には新たな治療戦略の提供へとつなげていくことが期待される、と研究グループは述べている。

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