医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 高度不妊治療女性のストレス、「終わりの見えない治療」が最多-成育医療センターほか

高度不妊治療女性のストレス、「終わりの見えない治療」が最多-成育医療センターほか

読了時間:約 2分56秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年10月06日 AM11:05

治療開始早期の段階で、すでに軽度以上の抑うつ症状

国立成育医療研究センターは10月5日、高度不妊治療を開始して早期の女性が最も強く感じているストレス要因は何か、またそれらとメンタルヘルスの状況との関連を調べ、自由記述の分析から、「終わりの見えない治療」「アイデンティティの揺らぎ」「ひとりで抱え込む苦しみ」「高額な治療費」の4つがネガティブなストレス要因として抽出されたことを発表した。この研究は、同センター社会医学研究部の加藤承彦室長、髙畑香織共同研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、日本受精着床学会誌に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本産科婦人科学会の調査によると、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を用いた治療は、2020年には全国で44万9,900治療周期が行われ、出生児数は6万381人であった。2020年の生まれた子どもの数は84万835人のため、約13.9人に1人が生殖補助医療を用いて生まれたことになり、今後も増加することが予測される。

不妊治療には、身体的負担、心理的負担、、時間的負担があるといわれている。先行研究では、体外受精などの高度不妊治療を受ける女性の約半数が治療開始早期の段階で、すでに軽度以上の抑うつ症状があることが明らかになっている。不妊治療中のストレスはさまざまであることがわかっているが、どのストレス要因がメンタルヘルスに関連しているかは明らかになっていなかった。

高度不妊治療を受ける女性344人を対象に調査

研究グループは今回、日本人女性が高度不妊治療を開始して早期に最も強く感じているストレス要因を明らかにし、その特性によるメンタルヘルス状態の差異を理解することを目的として、「高度不妊治療を受ける女性を対象とした追跡調査プロジェクト」のデータを用い、研究を実施した。この調査の初回および二回目調査の量的データはすでに報告されている。そのうち、今回の研究の対象者は、「子どもがいない」「採卵が2回まで」「自由記載欄の記述あり」という条件を満たした344人だった。

自由記載欄のコメントを分析した結果、次の4つのネガティブなストレス要因が抽出された。最多は「終わりの見えない治療」(28%)で、ほか「ひとりで抱え込む苦しみ」(25%)、「アイデンティティの揺らぎ」(15%)、「高額な治療費」(17%)であった。

「終わりの見えない治療」該当女性のうち、70%は抑うつ症状あり

分析では質的なデータである自由記載から判断されるストレス要因について参加者1人に1つのカテゴリー(「終わりの見えない治療」「アイデンティティの揺らぎ」「ひとりで抱え込む苦しみ」「高額な治療費」)を対応させ、量的なデータである心理尺度と統合して考察した。

「終わりの見えない治療」に強くストレスを感じている女性のうち、抑うつ症状ありと判定された割合は70%だった。特徴として、相談や不妊治療開始から3年以上経過した人が多く含まれていた。 また、「ひとりで抱え込む苦しみ」は、パートナーや、職場、医療施設への不満など、自分以外の外的要因へ向けられており、情報不足や意思決定支援を求めていることがわかった。

「アイデンティティの揺らぎ」がストレスであると感じる女性は、不安が高まっている状態と判定された割合が最多だった。特徴として、婦人科疾患の既往、不妊原因が女性のみ、または男女と回答した割合が多く、健康関連 QOL 尺度(SF-12)は最も悪くなっていた。「高額な治療費」をストレスと感じる女性は、世帯年収900万以下の共働き世帯が多く、特別なメンタルヘルスの悪化は認めなかった。なお、この研究は不妊治療が保険適用となる前に実施されている。

一方、ポジティブな要因として「治療のステップアップ」が抽出された。

今後の治療方針をともに考える支援の必要性を示唆

研究の結果、高度不妊治療におけるストレス要因は複合的であるものの、個人が最も強く感じている要因とメンタルヘルスの状況が関連している可能性が示唆された。不妊治療への金銭的、精神的な支援対策は少しずつ増えてきているが、不妊治療に関する情報提供の充実や意思決定支援など、今後の治療方針をともに考える支援の必要性も示唆された。

「今回の調査では、高度不妊治療開始早期の方を対象に調査したが、今後の追跡調査で治療期間が長期化した場合のメンタルヘルスや QOL の変化を分析する予定。不妊治療について、職場や友人へ伝えるかどうかの葛藤を整理し、ストレスの軽減や適切な制度利用につなげられるように「不妊の自己開示に関する意思決定支援の研究」を進めている。また、別の研究として「不妊治療のステップアップに迷うカップルに対する意思決定エイド」の作成にも取り組んでいる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか
  • AYA世代の乳がん特異的な生物学的特徴を明らかに-横浜市大ほか
  • 小児白血病、NPM1融合遺伝子による誘導機序と有効な阻害剤が判明-東大
  • 抗血栓薬内服患者の脳出血重症化リスク、3種の薬剤別に解明-国循
  • 膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか