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がん細胞膜を傷つけずに薬を届ける技術開発、インクジェット応用で-大阪公立大ほか

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2023年10月06日 AM10:52

細胞を傷つけない細胞内導入技術に、インクジェットシステムと膜透過性ペプチドを利用

大阪公立大学は10月5日、がん細胞膜に穴を開けることなく超微量薬物を細胞内に導入することを可能にし、その結果、がん細胞に対して細胞死を誘導するペプチドを細胞内へ高効率に取り込み、がん細胞死を生じさせることに成功したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の大村美香大学院生(博士前期課程2年)と中瀬生彦教授、京都大学化学研究所の二木史朗教授、武庫川女子大学薬学部の中瀬朋夏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、機能性タンパク質や核酸、人工高分子などの新しい薬物が日々生み出されている。しかし、高分子薬を細胞膜通過させて細胞内に導入することは難しく、多くの薬物は細胞の外に存在する生体分子を標的としている。

これまでの細胞内導入技術では、細胞に針を通して目的薬物を導入する方法や、細胞に高電圧をかけて細胞膜構造を不安定にしてから目的薬物を取り込ませる方法が代表的だった。これらの方法は確実性が高く細胞内導入効率が高い一方で、熟練した技術が必要で、かつ作業効率が低く、細胞生存率への影響が大きいことなどが問題視されている。研究グループはこれらの問題点を解決するため、簡便で細胞を傷つけない新たな細胞内導入技術として、インクジェットシステムと膜透過性ペプチドを用いた方法の開発を進めている。

液滴の吐出スピード上昇で細胞膜通過/細胞内への移行効率上昇、吐出量制御も可能

今回の研究では、まず、(クラスターテクノロジー株式会社製)を用いて蛍光標識したウイルス由来の膜透過性ペプチド(FHV coat(35-49))をインクジェットプリンターのインクカートリッジ部分に相当するヘッド部分に入れ、ヒト子宮頸がん由来HeLa細胞に吐出し、細胞内移行を観察した。その結果、液滴の吐出スピードが増すほど細胞膜通過および細胞内への移行効率が上昇することを確認。さらに、類表皮がんや乳がん細胞でも同様にFHVペプチドの高効率な細胞内移行を確認できたという。

このインクジェットシステムは1滴をピコリットルレベルで制御できるだけでなく、1秒間で1,000回の連続高速吐出も可能。詳細な機序を今後調べる必要があるが、同技術は細胞膜を損傷させることなく目的分子が通過し、細胞内へ高効率に到達できる画期的な技術だと言える。

PAD/FHVペプチド結合+インクジェットで効率的にがん細胞死を誘導

次に、狙ったがん細胞群に細胞死を誘導させるため、PAD(pro-apoptotoc domain)ペプチドの細胞内導入実験を行った。PADペプチドは細胞内に入るとミトコンドリアの膜を損傷させ、細胞死を誘導する。しかし、PADペプチドだけでは細胞内への移行効率がとても低く抗がん剤として使うことができない。同研究では、PADペプチドにFHVペプチドを結合させ、さらにインクジェットシステムを用いた結果、高効率にがん細胞群に導入し細胞死を誘導することに成功した。一方で、FHVペプチドを結合させていないPADペプチド単独の場合は、インクジェットを用いても導入効率が低く、細胞死を誘導できないことも確認した。

さらに、分子量が約15万といった巨大分子である抗体も、細胞膜を不安定化する膜透過性ペプチド(L17E)とインクジェットシステムを用いることで、がん細胞群に高効率で細胞膜通過し細胞内への導入が可能であることが確認できたとしている。

簡便・高効率に目的薬物を細胞内に届ける技術として幅広い応用に期待

同研究成果は、基礎生物学研究から医学・薬学での臨床応用を見据えた、さまざまな薬物送達に応用可能な波及効果の高い技術となることが期待される。

「これまで技術的に困難だった細胞内分子を標的とした高分子薬が幅広く応用でき、細胞膜内への導入が困難だった薬物も利用できるようになる。顕微鏡手術における狙った細胞群への薬物導入への適応等も考えられ、技術応用の広がりも期待できる」と、研究グループは述べている。

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