手首の体温で将来の疾患リスクが分かる?
将来、手首の皮膚温の継続的な測定により肝疾患、2型糖尿病、高血圧、腎疾患などの疾患リスクをモニタリングできる日が来るかもしれない。米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のCarsten Skarke氏らによる研究で、手首皮膚温が、将来のさまざまな疾患の発症リスクと関連することが示されたのだ。この研究結果は、「Nature Communications」に8月24日掲載された。
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体温リズムの乱れは、メタボリックシンドロームや糖尿病など、いくつかの疾患と関連付けられている。今回の研究では、UKバイオバンク参加者9万1,462人を対象に、手首皮膚温の振幅と425種類のフェコード(PheCODE)の疾患の将来の発症との関連が検討された。フェコードとは、遺伝子変異と臨床症状(フェノタイプ)との関連を調べるためのツールやデータベースで、遺伝子型に基づき、疾患などのフェノタイプを分類するコード体系から成る。対象者は1週間にわたって手首に装着した活動量計により昼夜の手首皮膚温がモニタリングされていた。皮膚温データは参加者の日常生活の中で測定されたものであるため、概日リズム、睡眠と覚醒、および環境条件の影響に関連する情報も含んでいた。
その結果、手首皮膚温曲線に描かれる山と谷の変化が平坦であればあるほど、慢性疾患の発症リスクが高い可能性が示唆された。具体的には、425種類中73種類(17%)のフェコードが、手首皮膚温の振幅の減少と有意に関連し、皮膚温の振幅が2標準偏差(1.8℃)低い場合には、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の発症リスクが91%、2型糖尿病の発症リスクが69%、腎不全の発症リスクが25%、高血圧の発症リスクが23%、肺炎の発症リスクが22%、それぞれ増加することが示された。
Skarke氏は、「今回の研究で得られた知見は、最新のテクノロジーと健康モニタリングを強力に結び付ける可能性を示すものだ」と述べる。同氏は、「例えば、多くの人が使っているスマートウォッチには、すでに皮膚温センサーが搭載されている。将来的には、この皮膚温データをデジタルバイオマーカーとしてケアチームと共有して活用することが、特定の疾患の発症リスクを理解し、治療や予防措置を検討する際の手助けになる可能性がある」と述べている。
論文の筆頭著者である、同大学トランスレーショナル医学・治療学分野のThomas Brooks氏は、「体温リズムは正常な概日リズムの維持に関わる一側面に過ぎない。しかし、今回の研究結果は、睡眠や身体活動のタイミングを一定にするなど、健康的な概日リズムを維持することの重要性を示す、増えつつある知見に加わるものだ」と話している。
研究グループは、「この研究は、今後、スマートウォッチによる新たな測定データを追加し、また若年層やより多様な人々を対象者に含めることで発展させることができる」と述べている。また、体温リズムにターゲットを絞ってさらに調査を進めることで、その基盤にある生物学についての洞察を深めることも視野に入れている。
研究グループは、今回の研究データをまとめ、「Temperature Biorhythm Atlas(体温バイオリズムアトラス)」というウェブサイトに掲載している。本研究は、UKバイオバンク、米国国立トランスレーショナル・サイエンス推進センター、米国国立精神衛生研究所(NIMH)、米国心臓協会(AHA)から資金提供を受けて実施された。
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・Diurnal rhythms of wrist temperature are associated with future disease risk in the UK Biobank
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