医療後進国でも施行可能な眼トキソプラズマ症の診断・治療法確立が必要
名古屋大学は10月4日、眼トキソプラズマ症の病態に鉄を伴う細胞死であるフェロトーシスが関与していることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科眼科学の山田和久大学院生、兼子裕規准教授、同研究科生体反応病理学の豊國伸哉教授、同研究科環境労働衛生学の田﨑啓講師、帯広畜産大学 原虫病研究センター創薬研究部門先端治療学分野の西川義文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Redox Biology」電子版に掲載されている。
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トキソプラズマは世界人口の3分の1以上が感染しており、日本では成人の20~30%が感染していると推測されるほど広く蔓延した感染症で、生または加熱不十分な豚肉や羊肉、ヤギ肉、猫の糞便などから感染する。主症状の一つに眼トキソプラズマ症があり、その有病率は南米で約17%程度、患者の約24%で少なくとも片眼での法的失明に至ると言われている。最も信頼性の高い前房水を用いたPCR検査でもトキソプラズマの検出率は3割に留まる。
眼トキソプラズマ症の克服は世界レベルで重要な課題であり、この問題を解決するために医療後進国でも施行可能な診断法と治療法の確立が求められている。
眼トキソプラズマ症患者で、硝子体液中の「鉄」濃度が低下
研究グループが眼トキソプラズマ症患者の硝子体液中の鉄濃度を測定したところ、黄斑円孔や増殖糖尿病網膜症、ウイルス感染によって起こる急性網膜壊死の患者の硝子体液中の鉄濃度と比較して、有意に低下していることが判明した。また、LA-ICP-MSを用いることで、眼トキソプラズマ症のヒト網膜切片において通常認められない鉄の取り込みが起こっていることが確認された。
そこで、トキソプラズマ感染マウスに自然界におよそ2%しか見られない57Feを硝子体注射および静脈注射したところ、網膜中層から外層にかけて57Feの集積を認めた。
トキソプラズマ感染マウス網膜でのフェロトーシス確認、デフェリプロン投与で改善
さらに、トキソプラズマ感染マウスの網膜において4-HNEやMDAの上昇といった脂質過酸化の亢進、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx4)の減少、ミトコンドリアの退縮とクリステの減少が確認され、眼トキソプラズマ症においてフェロトーシスが誘導されていることが示唆された。
加えて、鉄のキレート剤であるデフェリプロンを硝子体注射および経口投与することによって、網膜内の鉄の集積が低下し、眼トキソプラズマ症の所見が改善することを確認したという。
眼内液の鉄測定で、トキソプラズマ感染による失明を予防できる可能性
今回の研究により、眼トキソプラズマ症とフェロトーシスとの関連が世界で初めて示唆された。「眼内液の鉄を測定するという迅速かつ簡便な方法を確立することによって、PCR検査などとは異なり、限られた医療資源、環境下でも検査・診断が可能となり、中南米諸国やアフリカ諸国などに診断・治療法を提供することで、世界レベルでトキソプラズマ感染による失明患者を救うことを目指している」と、研究グループは述べている。
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