抗体獲得には個体差あり、遺伝学的背景が及ぼす影響は?
広島大学は10月3日、COVID-19ワクチン接種後の抗体産生および抗体価の維持において、免疫応答を制御する関連分子の遺伝子多型が及ぼす影響を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科消化器・移植外科学の大段秀樹教授らの研究グループによるもの。
研究成果は、「Frontiers in Immunology」に掲載されている。
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COVID-19ワクチン接種により、感染予防や重症化予防がもたらされた。社会活動は「コロナ以前」に近づきつつある一方で、依然として医療に対する影響は大きなものがある。COVID-19ワクチン接種後の免疫反応については、世界中で多くの大規模な研究がなされている。ほとんどの場合、ワクチン接種後に十分な量の特異的抗体の産生が得られることが知られている。産生される抗体は半年を過ぎる頃には徐々に低下することが明らかになっており、これらの知見を基づきワクチン接種スケジュールが決定されている。一方、抗体獲得には個体差があることも知られている。抗体が得られにくい、もしくは抗体価が早く減弱しやすいリスクがある集団としては、高齢者や男性などが示唆されているが、まだ不明な点が多くある。特に、遺伝学的背景が及ぼす影響については、まだ十分な検討がなされていない。
ワクチン2回接種の医療従事者、15免疫関連分子・33SNPと抗体価の関連を解析
遺伝子多型の一塩基多型(以下、SNP)は、分子の発現量や質に影響し、生体反応に影響を及ぼすことが知られている。以前より研究グループは、免疫応答の制御に関わる分子のSNPに注目し、移植免疫、がん免疫領域での影響を研究、臨床応用してきた。COVID-19ワクチンに対する反応においても、こういった免疫制御関連分子のSNPが影響している可能性があると考えた。
そこで今回の研究では、COVID-19ワクチンを2回接種した医療従事者を対象とし、抗体産生に関わる免疫細胞の働き、すなわち抗原提示細胞の活性化、T細胞の活性化、T-B相互作用、およびB細胞の生存に関与することが知られている15免疫関連分子、33SNPについて、各個人の遺伝子多型の影響を調べた。これらの遺伝子多型の組み合わせと、ワクチン初回接種の3週間後(2回目の接種直前)、2回目接種の3週間後、2回目接種の5か月後の各時点で測定した抗SARS-Cov2スパイクIgG抗体価との関連を解析した。
抗体獲得にはNLRP3やIL12Bなど、抗体維持にはMIFやBAFFなどの多型が関与
研究の結果、抗体獲得には免疫感作に関わるNLRP3、IL12Bを含む複数の遺伝子多型の関与、抗体維持にはMIFやBAFFといったB細胞生存に関わる遺伝子多型の関与を認めた。遺伝子多型の組み合わせにより、2回目ワクチン接種後の抗体価が判明している場合には、6か月後の抗体維持困難な個体を感度、特異度共に8割を超えて予測(AUC=0.86)、抗体価の情報がなくても感度67.8%、特異度82.5%(AUC=0.76)で予測するモデルを作成した。
ワクチン開発や接種スケジュール個別化への寄与に期待
今回の研究により、COVID-19ワクチンに対する免疫応答において、重要な遺伝子多型の関与が明らかになった。これらの知見は今後のワクチン開発・接種スケジュールの個別化を図るうえで有益な情報となることが期待される。今後は、免疫応答のもう一つの柱である細胞性免疫との関連や、副反応の重症度との関連についても研究を進めていく予定だ、と研究グループは述べている。
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