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レトロウイルスベクター遺伝子治療による白血病発症機序を解明-成育医療センターほか

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2023年10月04日 AM10:25

第二世代のベクター治療でも白血病報告、機序解明は重要

国立成育医療研究センターは10月3日、レトロウイルスベクターによる造血幹細胞遺伝子治療を受けた後に、(白血病の一型)を発症した患者における、詳細な白血病の発症機序を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター成育遺伝研究部の内山徹氏、小野寺雅史氏、免疫科の河合利尚氏、周産期病態研究部の中林一彦氏、宮崎大学小児科の布井博幸氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性肉芽腫症は遺伝子異常を原因とする原発性免疫不全症の一種で、体内に侵入した細菌や真菌を殺菌できないため、生まれた直後より重い感染症にかかる重篤な疾患。治療としては他者からの造血幹細胞移植があるが、ドナーが見つかりにくいことから自分の造血幹細胞に正常遺伝子を組み入れる遺伝子細胞治療が以前より行われている。

慢性肉芽腫症に対する、第一世代のベクターであるレトロウイルスベクターによる遺伝子細胞治療では、一部の患者において副作用として白血病の発症が報告されている。これは、染色体にウイルスベクターが組み込まれる際、近くにがん遺伝子が存在すると、そのがん遺伝子が活性化し、白血病を引き起こすためだ。しかし、その発症時期は治療後3年から5年(長いもので15年)と時間が経ってからであり、遺伝子細胞治療におけるがん化には他の要因も必要であるとされ、そのメカニズムは複雑でいまだ解明されていない。また、現在、安全とされる第二世代のベクター(ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のレンチウイルスベクター)が用いられているが、白血病の発症が少ないながらも報告されている。ウイルスベクターによる白血病発症機序の全体像を把握することは、今後の安全な遺伝子細胞治療の開発に極めて重要な案件となっている。

MECOMへのベクターの挿入+WT1の欠損によってがん化

研究グループは、慢性肉芽腫症でレトロウイルスベクターによる造血幹細胞遺伝子治療を受け、その後、白血病を発症した患者の血液および骨髄細胞を、次世代シーケンサーを用いて細胞学的・遺伝学的に解析した。

その結果、白血病細胞では、がん遺伝子であるMECOM遺伝子へのベクターの挿入のほか、がん抑制遺伝子であるWT1遺伝子の欠損が起こっており、この組み合わせにより細胞のがん化()が起こったことが判明した。このことから、遺伝子細胞治療におけるがん化には複雑な機序が関与していることが推測された。

がん化の低減、より安全な遺伝子細胞治療に期待

今回の研究により、レトロウイルスベクターによる白血病発症に関し、ベクターのゲノム組み込みを含めた多段階発症機序が明らかになった。「現在はより安全なレンチウイルスベクターが使用されているが、遺伝子細胞治療におけるがん化(造腫瘍性)は最も重篤な副作用であり、今回のがん化のメカニズム解明は、遺伝子細胞治療におけるがん化の低減につながり、さらには患者の安全性評価法の確立にも大いに役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。

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