脳機能の低下とNASH発症の関連は?
金沢工業大学は10月3日、神経細胞を成長させる脳由来神経栄養因子(BDNF)が低下したとき、肥満、代謝の低下、そして、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)を発症することを発見したと発表した。この研究は、金沢工業大学、徳島大学、香川大学、産業技術総合研究所の研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Pathology」に掲載されている。
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BDNFは、脳の発達、記憶・学習をはじめとする脳の働きに必須のタンパク質として知られている。しかし、その役割は脳だけでなく、摂食、体重のコントロールにも関与することも報告されている。
NASHは、メタボリックシンドロームを基盤病態とする肝臓の生活習慣病。単なる脂肪肝とは異なり、肝臓組織にリンパ球や好中球が浸潤する、肝細胞が風船様に変性するといった炎症の発生、肝臓組織にコラーゲンが蓄積する線維化を顕著な特徴としている。これらの病態の持続は肝不全や肝がんなどのリスクにもなり得るため、NASHの治療および診断技術の開発は世界的に急務となっている。
NASHの発症には肝臓における代謝障害のみならず、肝外組織の炎症などが関与することが近年報告されていることから、研究グループは「脳機能の低下とNASHの発症が関係する」という仮説を立て、BDNF発現低下マウスで肝臓組織の病理組織学的解析とトランスクリプトームの解析を中心に、仮説の検証を行った。
BDNF発現低下マウスでヒトNASHの臨床学的特徴を確認
その結果、BDNF発現低下マウス(2種類のBDNF遺伝子改変マウス)において、ヒトのNASHの臨床学的特徴である「肥満・高血糖・高インスリン血症・肝臓における脂肪蓄積、炎症および線維化」を全て発症した。また肝外病変として、脂肪組織における炎症像(crown-like structure)も確認された。
マウス肝臓のRNA発現解析もNASH発症を支持
トランスクリプトームの解析では、脂質代謝障害や好中球の浸潤、酸化ストレスの亢進などを示す遺伝子の挙動が見られ、これらもBDNF発現低下マウスが自己免疫性肝炎や薬剤性肝障害などの他の肝疾患ではなく、NASHを発症していることを支持したという。
「脳と肝臓の疾患としてのつながり」という新たな考え方を示唆
BDNF発現低下マウスには、記憶・学習への影響だけなく、BDNFが摂食中枢に抑制的に作用することから過食といった肥満関連代謝障害が知られている。今回の研究では、BDNF発現低下マウスに摂食制限を施し、肥満に依存しないBDNFの肝臓への直接的作用が確認された。つまり、BDNF発現低下マウスでは摂食制限によって体重増加や血糖値上昇が抑制されているにも関わらず、肝臓では好中球を含む炎症細胞の浸潤が見出された。
「この結果は、神経栄養因子BDNFと末梢臓器の疾患NASH発症の直接的関係を示唆すると同時に、BDNF研究が脳から末梢臓器へと新たな展開を迎えることを意味する。脳と肝臓の疾患としてのつながり、心身の健康の考え方について新たな示唆を与えるものと期待される」と、研究グループは述べている。
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