医療現場でもAI活用に期待の一方、根拠不明なAIに課題
新潟大学は9月28日、2年間の健康診断の結果をもとに、食事内容や運動習慣の変化に応じて、その後3年間の体重がどのように推移するかを、NECソリューションイノベータ株式会社が開発した開発の人工知能(AI)で予測できる可能性を示したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授ら、NECソリューションイノベータ株式会社の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Public Health」に掲載されている。
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生活習慣は体重に大きく影響し、肥満は2型糖尿病、高血圧などの生活習慣病の原因となることから、適切な体重の認識と管理が大切だ。医療現場でもAIの活用が期待されているが、AIは、その判断が正確である一方で、その答えがどのように考えて出されたかが不明瞭であり、「AIのブラックボックス」として懸念されている。医療現場では判断基準が重要であるため、根拠の不明なAIの使用は難しいとされてきた。従来の研究では、AIを用いた将来の体重推移は、予測期間が短いため、生活習慣の変化の影響が十分に考慮されていなかった。
4万5,000人の食事内容/運動習慣をAIに学習させ予測モデル作成、5,000人のデータで検証
同研究では新潟県労働衛生医学協会で健康診断を受診した、生活習慣、肥満度、血圧、血液検査などの5年間のデータを有する19歳以上の5万人を対象とし、調査。そのうち、4万5,000人の2年間のデータを使用し、異種混合学習を用いることで、その後3年間の体重推移を予測するモデルを作成した。次に、5,000人の検証用データを用い、このモデルの正確性を検証した。
3年間の体重推移、従来の回帰分析と同程度の予測精度
その結果、異種混合学習は、集団を自動的に5つのグループに分割し、それぞれのグループごとにその後3年間の体重推移を予測するモデルを構築した。さらに、構築された5つのモデルは、これまでの回帰分析と同程度の予測精度を示すことが明らかになった。
同研究結果から、異種混合学習技術を使用したモデルにより2年間の健康診断結果を利用することで、その後3年間の体重の推移を予測するモデルを作成できる可能性が示された。これにより、さらに複雑な予測式を作成し検証するために時間を費やす必要が削減され、医療スタッフの負担が減少することが期待される。ただし、実際の現場で導入される前には、同研究の集団以外で体重の推移を予測できるかを十分に検証する必要があるとしている。
国民の予防医療に貢献の可能性
近年、生活習慣の多様化により、それぞれの人の特性に応じた指導を目指すことが重要とされている。そのためには、まず現在の生活習慣を正確に把握し、改善のための具体的なアドバイスを提供することが大切だ。今回の研究により、現在の食事内容、飲酒習慣、運動習慣を続けた場合、1〜3年後に体重がどうなるのか、また生活習慣を改善した場合は、どの程度改善するのかについて具体的に示すことで、個人に合わせた生活指導を提供できる可能性がある。また、同研究で使用された異種混合学習技術は、医療従事者や患者にも理解しやすいものとなっている。データから迅速かつ自動的に予測モデルを構築することができるため、健康診断の現場での活用が期待され、国民の予防医療に広く貢献できる可能性があるという。今後は、体重の推移に限らず、説明可能なAIを用いて、健康診断や日常診療を支援するAIシステムの構築を目指し、さらなる研究を進める予定だ、と研究グループは述べている。
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