もやもや病の創始者バリアント、脳梗塞等に関連するが追加の発症寄与因子もある可能性
国立循環器病研究センターは9月27日、東アジアのもやもや病の創始者バリアントとして同定され、日本人の約2.5%が保有するRNF213 p.R4810Kバリアントを保有している脳梗塞/一過性脳虚血発作患者が、このバリアントを保有していない脳梗塞/一過性脳虚血発作患者と比べて、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO-Ab)が有意に上昇していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター脳神経内科の吉本武史医師、猪原匡史部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Atherosclerosis」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
東アジアのもやもや病の創始者バリアントとして同定されたRNF213 p.R4810Kバリアントは、日本人の約2.5%が保有する遺伝子バリアントである。近年、報告された大規模コホート研究では、日本人4万6,958人を対象に同バリアントを調べた結果、日本人の脳梗塞の強力なリスク遺伝子と判明していた(全虚血性脳卒中のオッズ比1.91)。このバリアントは、脳梗塞に加え、一過性脳虚血発作、冠痙攣性狭心症や肺高血圧症などと関連しており、RNF213関連血管症という新しい疾患概念につながっている。しかしながら、RNF213 p.R4810Kバリアント保因者が全例、上記の疾患を発症するわけではなく、発症に寄与する因子がさらに存在する可能性が示唆されてきた。
脳梗塞/一過性脳虚血発作患者におけるTPO-Ab値、バリアント保有との関連は?
TPO-Abは、もやもや病や冠痙攣性狭心症との関連がこれまで報告されており、RNF213関連血管症を発症する因子の一つとして関与している可能性がある。さらに、TPO-Abは頭蓋内動脈狭窄におけるネガティブリモデリングとの関連も報告されている。以上より、脳梗塞/一過性脳虚血発作患者のTPO-Ab値は、RNF213 p.R4810Kバリアント非保有者よりも保有者の方が高い可能性があるのではないかという仮説を立てた。
今回の研究の目的は、前向き多施設観察研究であるNational Cerebral and Cardiovascular Center(NCVC)ゲノムレジストリを用いて、脳梗塞/一過性脳虚血発作の既往を有するRNF213 p.R4810Kバリアント保有者と非保有者のTPO-Ab値を比較し、このバリアントとTPO-Abの関連を明らかにすることとした。
多施設共同前向き観察研究であるNCVCゲノムレジストリに登録され、RNF213 p.R4810Kバリアント解析の同意の取得が得られた、発症後1週間以内に入院した脳梗塞/一過性脳虚血発作患者を対象とし、もやもや病または出血性脳卒中患者は除外した。RNF213 p.R4810Kバリアントの有無で分類し、患者背景およびTPO-Ab値を両群間で比較した。RNF213 p.R4810Kバリアントは、完全自動遺伝子解析システムで測定し、ヘテロ型(G/A)を保有群、野生型(G/G)を非保有群とした。
バリアント保有者のTPO-Ab値、中央値・上昇頻度ともに有意に高
対象は、2,090人の脳梗塞/一過性脳虚血発作患者(女性733人、年齢中央値74歳)で、そのうち、85人(4.1%)がバリアント保有者だった。TPO-Ab値の中央値はバリアント保有者で有意に高く(8.5 IU/mL vs 2.1 IU/mL、P<0.01)、TPO-Ab値上昇(>16 IU/mL)の頻度も有意に高い結果だった(27.1% vs 4.4%)。多変量解析では、RNF213 p.R4810Kバリアントの存在(調整オッズ比、12.42;95%信頼区間、6.23-24.75)がTPO-Ab値の上昇と有意に関連していた。
TPO-Ab値を下げる免疫学的介入など、RNF213血管症の発症予防につながる可能性
「TPO-Ab値の上昇は、RNF213 p.R4810Kバリアント保有者における脳梗塞/一過性脳虚血発作の発症に関連している可能性がある。したがって、TPO-Ab値を下げる免疫吸着療法などの免疫学的介入が、RNF213血管症の発症予防に有効か検証が必要になってくる可能性がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース