日本で増加傾向の好酸球性副鼻腔炎、原因は未解明
福井大学は9月22日、好酸球性副鼻腔炎の病態の原因の一つとして「Fusobacterium nucleatum菌」の減少が疾患と関連していることを見出したと発表した。この研究は、同大医学系部門 医学領域耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の木戸口正典助教、藤枝重治教授、筑波大学 医学医療系遺伝医学の野口恵美子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は、12週間以上続く鼻づまりと鼻汁を特徴とする疾患。これまで福井大学は、全国多施設共同研究(JESREC Study)を行い1,716例の患者を調査し、慢性副鼻腔炎の再発・難治性の危険因子を明らかにした。これらの危険因子に基づいて診断基準を作成し、国内における難治性副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎)の診断に広く用いられている。近年、日本では好酸球性副鼻腔炎が増加傾向にあるとされているが、同疾患の原因や増加の理由については明らかにされていなかった。
これについて研究グループは、疾患の原因にライフスタイルの変化など、環境的な要因があるのではないかと考えてきた。環境的な要因の一つとして近年、ヒトと共存する常在細菌叢(マイクロバイオーム)の重要性が報告されており、特に消化管や皮膚疾患では免疫系疾患との関連などが多数報告されてきている。そこで研究グループは、免疫疾患の一つである好酸球性副鼻腔炎も鼻腔内のマイクロバイオームと関連しているのではないかと考え、鼻腔マイクロバイオーム研究を行った。
副鼻腔炎が好酸球性か非好酸球性かで鼻腔マイクロバイオームが異なっていた
研究では、鼻副鼻腔の手術を受けた143人(好酸球性副鼻腔炎患者65人、非好酸球性副鼻腔炎患者45人、その他の手術患者33人)を対象に、鼻の中のぬぐい液を採取して細菌由来DNAを抽出、次世代シークエンサーで測定し解析した。さらに、細菌由来代謝産物を用いて、ヒト気管上皮細胞に対する反応を検証した。
慢性副鼻腔炎患者について、鼻腔マイクロバイオームとどのような因子が関連しているか調べたところ、好酸球性副鼻腔炎(診断スコア11点以上)、鼻腔ポリープの有無、アスピリン増悪呼吸器疾患(AERD)、CT重症度スコアとの関連が確認され、その中でも好酸球性副鼻腔炎(診断スコア11点以上)が最も高い統計値を示した。このことから、好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎のマイクロバイオームは異なることが示唆された。
好酸球性副鼻腔炎の鼻腔でFusobacterium nucleatumが顕著に減少
次に、好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎のマイクロバイオームを比較したところ、双方は異なる細菌組成であり、好酸球性副鼻腔炎では特定の菌種系統が減少していることが示唆された。そこで、それらを構成する菌種について詳細に分析したところ、好酸球性副鼻腔炎ではCorynebacterium/Staphylococcus/Moraxella/Propionibacterium菌が増加しており、Fusobacterium/Porphyromonas/Parvimonas/Treponema/Prevotella菌が減少していた。その中でも、Fusobacterium菌の減少が最も顕著だった。さらに細かな菌種まで確認したところ、Fusobacterium菌の一種「Fusobacterium nucleatum」であることが判明した。
Fusobacterium nucleatum由来のLPS減少が発症の原因となっている可能性
細菌データベースを参考にして細菌機能について予測し、好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎の細菌機能を比較したところ、多数の細菌機能が異なっていることを確認し、その中でも好酸球性副鼻腔炎においてリポ多糖(LPS)生合成の低下が最も顕著だったという。Fusobacterium nucleatumはLPSを生成する菌種として広く知られていることから、Fusobacterium nucleatum由来のLPSの働きについて検証した。
Fusobacterium nucleatumを培養し、精製したLPSを用いてヒト気管上皮細胞への働きについて検討した。その結果、Fusobacterium nucleatum由来のLPSを前刺激した場合は、2型炎症において重要な役割を果たすALOX15遺伝子の発現を抑制することが確認された。この効果は他の菌(大腸菌)が産生するLPSでは認められなかった。つまり、Fusobacterium nucleatum由来のLPSには保護的な働きがあり、好酸球性副鼻腔炎ではFusobacterium nucleatum由来のLPSが減少していることで保護的な働きが欠落し、発症の原因となっている可能性が示唆された。
鼻腔マイクロバイオーム改善による治療効果を検証し、新規治療薬開発を目指す
今回の研究成果により、好酸球性副鼻腔炎は非好酸球性の副鼻腔炎とは異なるマイクロバイオームであることが判明し、鼻腔マイクロバイオームを構成する細菌種や、その代謝産物が変化することにより好酸球性副鼻腔炎を発症し増悪する可能性が示された。
「今後は、鼻腔マイクロバイオームを改善させることによる好酸球性副鼻腔炎の治療効果を検証し、生活習慣の予防やプロバイオティクスなど新規治療薬の開発へとつなげたいと考えている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・福井大学医学部 プレスリリース