αシヌクレインの毒性発現に必須のFABPs、疾患リスク予測マーカーになる?
東北大学は9月25日、脂肪酸結合タンパク質(FABPs)がレビー小体型認知症(DLB)のバイオマーカーとして機能する可能性を調査した結果を発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の川畑伊知郎特任准教授、福永浩司名誉教授、仙台西多賀病院の武田篤院長、大泉英樹医師の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」に掲載されている。
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世界中で高齢化人口が増加しており、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、DLBなど、加齢に関連する脳疾患が増加している。これらの疾患の早期治療介入と発症前予防を行うためには、バイオ―マーカーによる予測や診断が非常に重要だ。微量採血で済む血液バイオマーカーの利用は、脳脊髄液の採取による患者の負担や放射線被曝を伴うPET検査に比べて安全、簡便であり、コストパフォーマンスが高いという利点がある。
研究グループは先行研究により、FABPsがDLBの原因タンパク質αシヌクレインの神経細胞取り込みと毒性発現に必須であることを明らかにしている。そこで、今回の研究ではFABPsの疾患リスクの予測マーカーとしての有用性に着目した。
AD、PD、DLB、MCI患者600人と対照群の血漿中FABPsレベルを比較
今回の研究では、FABP3がDLBの進行に関与することを検討した。また、FABP5は脳炎症によるミトコンドリア損傷に、FABP7はオリゴデンドロサイトの変性に関与していることを明らかにした。さらに、DLB原因タンパク質の腸から脳への移行もこの疾患において重要な役割を果たしている。これらの背景から、FABPファミリータンパク質(FABPs)がDLBの状態を反映する可能性を検討した。
まず、AD、PD、DLB、MCIの患者600人および健康な対照群の血漿中のFABPsレベルを測定し、それらを比較。その結果、FABP3の血漿レベルは全てのグループで増加していることがわかった。一方、FABP5およびFABP7はADグループで減少傾向にあった。また、FABP2はPD患者で有意に増加していた。この結果から、FABPsはAD、PD、DLBおよびMCIを鑑別する潜在的なバイオマーカーと考えられた。
血漿FABP3レベルの高さ、認知・運動機能の低下と相関
次に、既知のバイオマーカーを測定し、臨床症状との相関分析を実施。その結果、FABP3の高い血漿レベルは認知機能(r=-0.30, p<0.0001)および運動機能の低下(r=-0.34, p<0.001)と相関していることが明らかとなった。また、Tau、GFAP、NF-L、UCHL1などの既知のバイオマーカーとMMSEスコアとの間にも相関性が見られた。この結果は、これらのバイオマーカーが各疾患における認知機能の進行を予測するのに役立つ可能性があることを示唆している。
マルチマーカーの組み合わせでMCI、AD、PD、DLBを高精度に鑑別可能
さらに、FABPsを含む複数のバイオマーカーの血漿レベルを利用して各疾患を鑑別するためのスコアリング法を探索した。その結果、MCI対健常者、AD対DLB、PD対DLB、AD対PDなどの比較において高い精度(AUC>0.85, p<0.0001)で疾患を区別できることが示された。これにより、臨床症状に基づく診断において、鑑別が難しかったDLBを検出することが可能になったとしている。
FABPsおよび既知の血漿バイオマーカーを組み合わせたマルチマーカーのスコアリング技術により、MCI、AD、PD、DLBを高精度に鑑別可能となり、臨床症状だけでは診断がつきにくい患者の疾患リスク予測に有用であると考えられる。
加齢に関連の脳疾患との識別に役立つ可能性
今回の研究成果は、FABPsがDLBの潜在的なバイオマーカーとして機能し、マルチマーカーのスコア化技術により早期の疾患検出と疾患の鑑別が可能あることを示唆している。現在、医療機関や個人での使用に向けた実用化を進行しており、認知症やPDを発症前に予測可能になることで早期治療介入と根本治療が実現可能だ。また、高齢化社会の医療費圧迫について、認知症を予防可能なサステイナブルな社会の実現により、社会医療費や介護費の削減にも貢献することが可能だ、と研究グループは述べている。
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