血行再建術の後、危険の高い脳室吻合チャネルは退縮するか
東京医科歯科大学は9月22日、小児もやもや病において、間接血行再建術が脳出血の危険が高い血管(脳室吻合チャネル)を退縮させ、将来の脳出血の危険を下げる可能性を示したと発表した。この研究は、同大医学部医学科の鄭翌氏、大学院医歯学総合研究科脳神経機能外科学分野の原祥子助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurosurgery:Pediatrics」にオンライン掲載されている。
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もやもや病は、脳の太い動脈がゆっくり細くなり、脳血流が低下し、それを補うためにもやもや血管と呼ばれる異常血管が形成される病気である。国内の患者は10万人あたり3~10.5人とまれであるが、小児や30〜40代の若い大人に脳梗塞や脳出血をおこすことがあり、厚生労働省の指定難病になっている。RNF213遺伝子変異(p.R4810K)が、もやもや病関連遺伝子として同定されており、10~20%の患者は血縁のある親族にもやもや病の人がいる。
もやもや血管のうち、特に長く発達したものは脳室吻合チャネルと呼ばれ、脳出血の原因となる危険が高いと考えられている。脳出血を発症すると、後遺症を残したり、命に関わったりする可能性が高いため、脳室吻合チャネルは近年注目を集めている。
もやもや病の根本治療はないが、脳血流不足に対しては頭皮や脳を包む膜(硬膜)の動脈と脳の動脈をつなぐ、血行再建術という手術が有効である。血行再建術には直接血行再建術(頭皮の動脈を直接脳の動脈につなぐ)と間接血行再建術(頭皮や脳を包む膜(硬膜)の動脈を脳の表面におき、脳の動脈とつながる新しい血管をつくる)がある。同大は1979年に間接血行再建術を開発して以降、200人以上の小児を治療してきた。一方、手術で脳血流がよくなったものの、大人になってから脳出血を起こす小児も経験し、手術で脳室吻合チャネルがどう変化するかを知ることが必要と考えた。
間接血行再建術後の小児患者58人、1年後の脳室吻合チャネル・脳血流症状は有意に改善
研究グループは、2011年8月から2021年12月までに同大学病院で間接血行再建術を受けた小児もやもや病患者(発症年齢18歳以下)58人を対象に、もやもや血管、脳室吻合チャネル、脳血流の変化を、磁気共鳴画像(MRI)で調査した。患者によって両側の大脳半球を手術する人と片側のみ手術する人がいるが、一度の手術で両側を手術した場合は左右の脳をそれぞれ対象とし、手術前と手術1年後の合計89の大脳半球を調査した。
結果、74.2%の患者は間接血行再建術で頭皮や硬膜の動脈が脳の表面で顕著に定着しており、これらの患者を手術後効果良好群と定義した。残り25.8%の患者は弱い定着のみ確認できて、手術後効果不良群と定義した。また、88.8%の患者で血流不足の症状が改善していた。手術後効果が良好であることは、症状改善と統計学的に有意に関連した。89半球を手術前と後で比較すると、脳血量は有意に増加し、脳室吻合チャネルは有意に退縮した。
効果良好群、脈絡叢動脈から発生したリスクの高い脳室吻合チャネルが有意に退縮
脳室吻合チャネルに関して詳細に調査すると、手術効果が良好であれば、最も出血の危険が高いとされる脈絡叢動脈から発生した脳室吻合チャネルが有意に退縮することがわかった。具体的には、脳室吻合チャネルが全くない状態(Score 0)、わずかに存在する状態(Score 1)、太く発達した状態(Score 2)、の分布をみると、手術前と比べ手術後で明らかに脳室吻合チャネルは少なくなっていた。一方、手術効果が不良である場合、脳室吻合チャネルは減少せず、視床動脈やレンズ核線条体動脈による脳室吻合チャネルはむしろ増える傾向にあった。
女児・手術前脳血流量少ない患者で手術効果良好となる傾向
続いて、手術効果がどのような症例で良好であったかを調査した。すると、女児の方が男児より、(84.9%vs58.3%)、また、手術前脳血流量が少ないほうが、手術効果は良好だった。さらに、手術効果によるもやもや血管と脳室吻合チャネルの退縮具合を調べると、手術効果が良好であるほど、脳血流量は改善し、もやもや血管と脳室吻合チャネルの退縮がより顕著だった。
最後に、脳室吻合チャネルの退縮と関連する因子を調査した。統計学的な有意差がみられた因子はなかったものの、脳室吻合チャネルが術後に増生した患者は退縮した患者より年齢がより若い傾向にあった(平均6.75歳vs8.18歳)。RNF213p.R4810K変異を有する患者も脳室吻合チャネルが術後に退縮する傾向があった(変異あり:49.1%、なし:38.5%)。
間接血行再建術、将来の脳出血の危険下げる可能性を示した
今回の研究は、間接血行再建術を行った小児もやもや病患者の多くは手術効果が良好で、手術後に血流不足の症状が改善し、脳血流が改善すること、手術効果が良好であれば、出血リスクが高いとされる脈絡叢動脈から発生した脳室吻合チャネルが退縮することを示した。間接血行再建術が脳血流不足の改善だけでなく、将来の脳出血の危険を下げる可能性も示したという点で、注目に値する。
これまでの小児もやもや病における間接血行再建術と脳室吻合チャネルの関係を調査したものは存在せず、この研究が世界初の報告となった。このため、出版元である米国脳神経外科学会から「迅速に出版すべき研究成果」と認定され、採択後早々に出版された。
間接血行再建術が脳出血リスクの高い脳室吻合チャネルの退縮につながったという結果は喜ばしいが、すべての症例で脳室吻合チャネルの退縮が得られておらず、また対象となった小児もやもや病患者たちはまだ成人しておらず、脳室吻合チャネルの退縮と成人後の脳出血の関連はまだ調査できていない。「小児もやもや病患者が脳出血を起こすことなく長い人生を過ごせるよう、研究を続けていく」と、研究グループは述べている。
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