膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトマウス作製、従来法では莫大な費用と時間を要する難点
順天堂大学は9月22日、膵β細胞でのみ特異的に遺伝子をノックアウトする新しい技術を確立したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科代謝内分泌内科学の植木響政助手、西田友哉准教授、綿田裕孝教授、北里大学医学部内分泌代謝内科学の研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes」オンライン版に掲載されている。
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遺伝子が特定の組織で欠損したマウス(条件付き遺伝子ノックアウトマウス)を作製することは、その遺伝子が特定の組織や臓器で果たす役割を解明する上できわめて有用な手段だ。膵β細胞の特異的遺伝子ノックアウトマウスの作製を通じて、2型糖尿病の病態には膵β細胞の機能不全が深く関与することが明らかにされてきた。膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトマウスを作製する際には、Cre-loxPシステムを用いることが一般的だ。しかし、このシステムは目的遺伝子の改変や膵β細胞特異的遺伝子組換え誘導が可能なマウスの交配といった過程を必要とし、莫大な費用と時間を要するという難点があった。
CRISPR-Cas9システムとAAVベクターによる作製を目指す
そこで、研究グループは今回、近年注目されているCRISPR-Cas9システムと生体の遺伝子導入で頻用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを組み合わせることにより、膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトマウスを作製することを目指した。
若年発症成人型糖尿病原因遺伝子ノックアウトでβCas9法の有用性を確認
今回の研究では、まず、膵β細胞特異的にCas9およびそのレポーターであるEGFP(緑色蛍光タンパク)を発現するマウス(βCas9マウス)を作製。次に、EGFPを標的としたgRNAを発現するAAVベクターを腹腔内に注射し、遺伝子ノックアウトの効率を検討した。AAVの投与4週後に膵β細胞のEGFP発現を観察したところ、約80%の効率でEGFP遺伝子がノックアウトされることを確認した。
また、若年発症成人型糖尿病4型(MODY4)の原因遺伝子として知られるPdx1をターゲットとしたgRNA(gPdx1)を、AAVベクターを用いた同様の方法でβCas9マウスに導入。そのマウスでは膵β細胞でのPdx1の発現低下とブドウ糖負荷試験での血糖上昇を認めた。gPdx1が導入された膵β細胞では、本来分泌されるインスリンの発現が低下し、膵α細胞から特異的に分泌されるグルカゴンの発現が増加していることが確認され、膵β細胞の分化転換が生じていると考えられた。この結果は、以前に得られていた膵β細胞特異的Pdx1ノックアウトマウスの解析結果と一致することから、同手法の有用性が確認された。研究グループは、βCas9マウスとAAVベクターによるこの新しい膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトの技術をβCas9法と命名した。
容易な手技+短期間で膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトを可能に
膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトマウス作製のためのβCas9法は、従来の方法であるCRISPR-Cas9システムと生体の遺伝子導入で頻用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを組み合わせることにより、膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトマウスを作製することを目指システムと比較し、AAVベクターの腹腔内注射というきわめて容易な手技を用いている。また、数週間という非常に短期間での膵β細胞特異的遺伝子ノックアウトを可能にした、画期的な技術だという。さまざまな遺伝子ノックアウトを簡便に試すことにより、遺伝子組み換えマウスの作出による本格的な検討に入る前のスクリーニングとして、膵β細胞研究を大きく加速させることが期待される、と研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース