MR-Linacで治療中に撮影できる断面は数枚程度、臓器の三次元的な動きの予測には不十分
筑波大学は9月25日、放射線治療中にリアルタイムで3方向から患部付近の断面(二次元画像)を撮影し、周辺臓器との位置関係から、各臓器の三次元的な動きを予測する技術、および、どの断面情報を用いればより正確な結果が得られるかを判断するための断面選択手法を開発したと発表した。この研究は、同大システム情報系の黒田嘉宏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「IEEE Transactions on Radiation and Plasma Medical Sciences」に掲載されている。
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がんなどに用いられる放射線治療は、体にメスを入れることがなく、また、通院治療が可能なため、社会復帰が早いという特徴がある。しかし、周辺の健康な臓器にも放射線の影響が及ぶ可能性があり、動きのある病変組織のみに対して強い放射線を当てることは容易ではない。呼吸のように規則正しい動きは、機械学習などを用いて予測できるが、周辺臓器との接触などによる不規則な動きは予測困難だ。
近年、リアルタイムで患部付近の断面情報(二次元画像)をMRI撮影しながら放射線治療を行う装置(MR-Linacなど)が実用化され、膵臓などに対する高い線量の照射が期待されている。しかし、治療中に撮影できる断面は数枚程度であり、臓器の三次元的な動きまで計算するにはデータが不足している。
治療前に患者臓器の三次元モデル構築、治療中に撮影した断面情報と掛け合わせて動きを予測
今回、研究グループは、放射線治療中に撮影可能な断面情報をもとに、周辺臓器との位置関係から臓器の三次元的な動きを計算および予測する技術を開発した。具体的には、治療前に、患者本人の三次元画像から対象臓器および周辺臓器を含む三次元モデルを構築しておき、リアルタイムで撮影した断面情報から断面内の臓器の移動を計算し、接触シミュレーションにより三次元的な動きを予測する。この技術を、断面情報を撮影できる放射線治療装置と併用することで、患部の位置をより正確に把握できる。
計算対象として最適な断面を効率よく選択できるモデル作成
性能を十分に発揮するためには、リアルタイムで撮影する断面の位置と、計算の対象とする臓器を適切に選ぶことも重要である。そこで、典型的な臓器の変形パターンに対して、ある断面を選んだときの推定の正確さを計算し、これらを対応付けるモデルを作製した。これにより、高い割合(決定係数0.9以上)で、最適な断面情報を選択できることを確認した。
より多くの断面情報を用いるほど、正確に動きを計算できることを確認
さらに、MRIデータが公開されている20症例について、この技術により膵臓の位置を求めたところ、その誤差が、3方向の断面(体軸・矢状・冠状断面)のうち1方向(体軸断面)のみを用いた場合には5.11mm、3方向すべての断面を用いた場合には2.13mmであったことから、より多くの断面情報を用いるほど、正確に動きを計算できることがわかった。
周辺の健康な臓器への放射線照射を避け、治療効果を高める技術としての実用化に期待
開発した技術は、周辺の健康な臓器への放射線照射を避け、治療効果を高める技術として実用化が期待される。「体内での臓器は常に動いており、そのような動きを正確に捉えることは、放射線治療をはじめとする、より正確で安全な治療技術の確立につながるとも期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL