医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 腎性貧血薬ロキサデュスタット、甲状腺ホルモン検査値に影響の可能性-関西電力ほか

腎性貧血薬ロキサデュスタット、甲状腺ホルモン検査値に影響の可能性-関西電力ほか

読了時間:約 3分13秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年09月21日 AM10:05

T3様骨格を有するHIF-PH阻害薬ロキサデュスタット、基礎研究ではTHRβ活性化を示唆

関西電力医学研究所は9月15日、腎性貧血の新規治療薬HIF-PH阻害薬ロキサデュスタットが、甲状腺ホルモン検査値へ影響を与える一方、別のHIF-PH阻害薬ダプロデュスタットは明らかな影響が見られないことを世界で初めて報告したと発表した。この研究は、同研究所糖尿病研究センター代謝・栄養研究部・関西電力病院糖尿病・内分泌代謝センターの浜本芳之部長、同医学研究所糖尿病研究センター研究員・岐阜大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学大学院生・関西電力病院糖尿病・内分泌代謝センターの原口卓也医員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

HIF-PH阻害薬は腎性貧血の新規治療薬として世界に先駆けて日本で使用開始となり、現在5種類の薬剤が臨床応用されている。一方、その有効性および安全性については依然として不明な点もある。その中で、初めて日本で市場に投入されたロキサデュスタットについては、その構造上甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)様の骨格をもつことから、甲状腺ホルモン代謝への影響が以前より示唆されていた。甲状腺ホルモンは、生体でのエネルギー代謝の調整に重要な役割を果たしている。代謝を活性化させることで体温を一定に保つ働きや、心拍数を増加させ、脂質や糖質の代謝にも影響を与え、全身のエネルギー利用のバランスを調整する。甲状腺ホルモンが不足すると体全体の機能が低下し、ホルモンが過剰な場合は過度な活動を引き起こし得る。甲状腺ホルモン分泌は、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されており、血中の甲状腺ホルモン濃度が低くなると脳の甲状腺ホルモン受容体(THR)βを検知し、下垂体からTSHが分泌され甲状腺に作用し、甲状腺ホルモンの分泌を刺激する。逆に、甲状腺ホルモン濃度が高まると、TSH分泌は抑制され、甲状腺ホルモンの分泌も減少する。このようなフィードバック機構によって、体内の甲状腺ホルモンのバランスが保たれている。

T3様骨格を有するロキサデュスタットについて、基礎研究ではTHRβを活性化させ得ることが報告されており、甲状腺ホルモン不応症に対する治療候補薬としての検討もなされている。加えて、症例報告でも甲状腺ホルモンの検査値が低値となったものが報告されている。しかし、他のHIF-PH阻害薬における甲状腺検査値への影響も含めて、依然として詳細は明らかではなかった。

HIF-PH阻害薬の甲状腺機能検査値への影響、各薬剤で後方視的に解析

今回の研究では、HIF-PH阻害薬の甲状腺機能検査値への影響について、薬剤投与における甲状腺検査値の変化、およびHIF-PH阻害薬剤間に違いを認めるか否かを検討することを目的とした。同院でロキサデュスタットもしくはダプロデュスタットの投与が開始され、かつ薬剤開始前後で甲状腺機能(TSH、遊離T4)が測定されていた患者について、血液検査結果および臨床学的指標を後方視的に解析した。

ロキサデュスタットで有意にTSH・遊離T4低下、ダプロデュスタットは変化認めず

今回の検討の結果、ダプロデュスタットを使用している患者では投与前後で有意な甲状腺ホルモンの変化は認めなかった。一方、ロキサデュスタットを使用している患者では有意にTSHおよび遊離T4の低下を認めた。さらに、ロキサデュスタット群では、ダプロデュスタット群に比べ薬剤投与後遊離T4が低下する例を有意に多く認めていた。以上より、ロキサデュスタット特有の事象として、投与後にTSHおよび遊離T4の低下を認めることが示された。

なお、ロキサデュスタットがT3様骨格を有するため、生体内で甲状腺ホルモン様作用をしていることが否定できなかった。そのため、実際に検査値通りの甲状腺機能低下症としての症状が認められているか否かを検討するため、遊離T4と総コレステロールやCKの変化についての相関関係を検討。その結果、遊離T4が低下している症例についても、明らかな総コレステロールおよびCKの上昇は認めなかった。

今後、前向き研究などでより詳細な検討が必要

今回の研究成果は、ロキサデュスタットが甲状腺ホルモン検査値へ有意な影響を与えることを示すとともに、検査値通りの甲状腺機能低下症の症状を示さない可能性も考えられる。このことから、ロキサデュスタット投与中の患者における甲状腺ホルモン検査値の解釈は注意が必要であるとともに、ロキサデュスタットはリアルワールドでヒトに対して甲状腺ホルモン様作用を持つ可能性が示唆される重要な知見であると考えられるとしている。

今回の検討は、単施設で後ろ向きにHIF-PH阻害薬と甲状腺ホルモン検査値の関連について示したものであり、今後は前向き研究や基礎的な研究を通じて、HIF-PH阻害薬と甲状腺機能の関連についてより詳細な検討が必要だ。また。ロキサデュスタットが実際に甲状腺ホルモン様作用を認めるか否かについては基礎的研究を含めさらなる研究の進展が望まれる、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大