「発達の早さ」「メディア視聴時間」の個人差を調整の上、視聴時間と発達の関連を調査
千葉大学は9月19日、テレビ・DVD視聴時間(メディア視聴時間)と発達について個人差を調整した上でも、乳幼児期のメディア視聴時間と子どもの発達が関連するかどうかを調査した結果を発表した。この研究は、同大予防医学センターの山本緑助教、国立成育医療研究センターエコチル調査研究部の目澤秀俊チームリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA pediatrics」に掲載されている。
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現在は、テレビやスマートフォンなど多数のメディア機器が生活にあふれている。メディア機器とどのように付き合っていくかは重要な社会課題であり、メディア機器が子どもの成長にもたらす影響の評価は重要だ。先行研究より、メディア視聴時間が長い子どもは発達が遅くなる関連が報告されている。しかし、従来の解析では「メディア視聴時間が長いから発達が遅くなるのか」それとも「発達が遅い子どもはメディア視聴時間が長くなりやすいのか」を分けて検討することができなかった。これを解決するためには、「発達の早さの個人差」と「メディア視聴時間の個人差」を調整した上で、メディア視聴時間と発達がどのように関連しているのかを調べる必要がある。近年、解析手法の発展により、それが可能となってきた。
カナダの先行研究では、2、3、5歳のメディア視聴時間と発達を比べ、メディア視聴時間が長いと発達スコアが低くなる影響を、2~3歳(中等度の影響)、3~5歳(中等度の影響)ともに認めたことを報告している。しかし、より低い年齢でもそのような傾向があるのか、国が違っても同様の傾向を示すのかは明らかになっていなかった。
エコチル調査参加者5万7,980人対象、1、2、3歳時点で検討
今回の研究対象は、環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の参加者のうち、全ての質問票に回答し、自閉スペクトラム症と診断されていない5万7,980人。5つに区分したメディア視聴時間(テレビとDVD視聴時間を1日あたり0時間、1時間未満、1時間以上2時間未満、2時間以上4時間未満、4時間以上)と発達スコア(日本語版Ages and Stages Questionnaire third editionを使用)の相互の影響を、1、2、3歳の3時点でランダム切片交差遅延パネルモデルにて検討した。
視聴時間「長」で1年後の発達スコアが低くなる影響、弱~中等度の強さで
調査の結果、カナダの先行研究と同様に、メディア視聴時間と発達は、全体としてメディア視聴時間が長いと発達スコアが低くなる関連を認めた。
1、2、3歳の各年齢でのメディア視聴時間と、5つの領域すべてを合計した発達スコアとの関連を検討。その結果、メディア視聴時間が長い方が、1年後の発達スコアが低くなる影響を認めたという。その影響の強さは、1~2歳では弱から中等度の影響、2~3歳では中等度の影響と大きくなっていた。一方で、5つの領域すべてを合計した発達スコアは、1年後のメディア視聴時間の長さに影響を認めなかった。また、メディア視聴時間が長いと、1年後のメディア視聴時間が長くなる強い影響を認めた。
コミュニケーション領域発達スコアが高いと視聴時間「短」
続いて、発達を領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人-社会)ごとに分けて影響を検討。1歳のメディア視聴時間は2歳のコミュニケーション領域に影響し、メディア視聴時間が長いと発達スコアが低くなる中等度の影響を認めた。また、2歳のメディア視聴時間は3歳の粗大運動(弱い影響)、微細運動(中等度の影響)、個人-社会(強い影響)の3領域において発達スコアが低くなる影響を認めた。特に、コミュニケーション領域では、上記とは逆となる、発達スコアが高いとメディア視聴時間が短くなる影響を、1~2歳(弱い影響)、2~3歳(弱から中等度の影響)に一貫して認めた。
また、子どもの発達スコアを高くする育児環境要因として、年上の兄弟、保育園の利用、子どもへの読み聞かせが挙げられた。
現段階では、「子どもにメディアを見せない指導」には及ばない
今回の研究成果により、メディア視聴時間と発達の個人差を調整しても、1歳からメディア視聴時間が長いと子どもの発達スコアが低くなる関連が認められた。これは、メディア視聴時間と発達の関連の因果関係を示す重要な成果だとしている。一方で、同研究結果から「メディア視聴は発達によくない」と判断し、現段階で家族や支援者が親に「子どもにメディアを見せない指導」をするには及ばないと考えられるという。今回の研究では、なぜその子どものメディア視聴時間が長くなってしまっているのか、メディア視聴時間を減らすためのその家族にとっての具体的な方法は何かについては明らかにしていない。具体的な方法を明らかにするには、今後介入研究での検討が必要になる。さらに、エコチル調査は2011~2014年に生まれた子どもが対象のため、当時まだ広範に普及していなかったスマートフォン使用の影響も検討できていない。今後は、スマートフォンなど他のメディアの影響や、より高い年齢での発達への影響などについて、研究が進められることが求められる、と研究グループは述べている。
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・千葉大学 プレスリリース