心臓疾患患者の有酸素運動能力を、腎臓病の重症度別に検証
神戸大学は9月19日、重度の腎臓病を持つ心臓疾患患者の有酸素運動の能力は、骨格筋ではなく、貧血や心臓の機能低下が影響することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院保健学研究科の尾倉朝美博士研究員、井澤和大准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Cardiology」に掲載されている。
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心臓疾患患者の有酸素運動の能力は、生命予後や日常生活に大きく影響する。心臓疾患患者の有酸素運動の能力は低値であることが問題となっている。その中でも、腎臓病を合併している患者ではさらに低値になると報告されている。心臓疾患患者が受ける心臓リハビリテーションの目的の1つは、有酸素運動の能力を改善し、健康寿命を伸ばしたり、楽にできる活動を増やすことだ。有酸素運動の能力を改善するためには、低下の原因を明らかにすることが必要だ。
心臓疾患患者の有酸素運動の能力低下の原因は多様だが、腎臓病を有する患者では腎臓病の病態も影響するために原因は複雑化する。また、腎臓病はその重症度によっても病態が異なる。したがって、心臓疾患患者の有酸素運動の能力低下の原因は腎臓病の有無とその重症度によって異なることが考えられる。原因が異なれば介入方法も異なる。そこで研究グループは今回、より効果的な有酸素運動の能力改善の治療方法の確立に向けて、心臓疾患患者の有酸素運動の能力を腎臓病の重症度別に検証した。
心臓疾患患者201例を対象に、有酸素運動能力と腎臓病の重症度を評価
研究では、2016年4月~2021年8月の間に心肺運動負荷試験を受けた250例の心臓疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全)患者を対象とした。その後、心肺運動負荷試験の信頼性確保の基準に満たない例やデータ欠損例を除外し、201例が最終解析対象者となった。有酸素運動能力の評価には、心肺運動負荷試験で得られる「嫌気性代謝閾値(Anaerobic threshold:AT)」を用いた。腎臓病の重症度の評価には、推定糸球体ろ過率(eGFR:ml/min/kg)を用い、対象者を3群(<45群、45~59群、≥60群)に分けた。
重度腎臓病では貧血・心臓機能低下が、中等度腎臓病では骨格筋機能低下が影響
ATは腎臓病の重症度が高いほど統計学的にも低値を示した(<45群:10.9±2.1 vs 45~59群:12.4±2.5 vs ≥60群:14.0±2.6, p <0.001)。腎臓病の重症度別にAT低値の原因を求めた統計解析の結果、eGFR<45群(重度の腎臓病)では、ヘモグロビン値と左室駆出率、eGFR45-59群(中等度の腎臓病)では、ΔPETO2(安静時からATまでの呼気終末酸素分圧の変化量)がAT低値の原因となった。
ATは、乳酸産生が乳酸クリアランスを上回り、乳酸の蓄積が始まるポイントだ。eGFR<45群におけるヘモグロビン低値、つまり、貧血は解糖系活性を引き起こし過剰に乳酸を産生させる。また、左室駆出率低下は心臓から拍出される血液量が減少するため、循環不全となり乳酸クリアランスを低下させる。乳酸産生が過剰な状態にあるにも関わらず、乳酸クリアランスも低下することから、乳酸蓄積が促進されAT低値につながると考えられた。
一方、eGFR45-59群においては、ΔPETO2低値は骨格筋のミトコンドリア機能障害を反映する可能性があることから、ミトコンドリア機能障害が乳酸クリアランスを低下させることが、乳酸蓄積を促進し、AT低値につながっていると考えられた。
重度腎臓病の心臓疾患は貧血改善、中等度腎臓病の心臓疾患は運動療法が重要
同研究の新規性は、心臓疾患患者における有酸素運動の能力が低い原因は腎臓病の重症度によって異なることを明らかにし、改善には腎臓病の重症度に応じた介入が必要であることを示したことである。重度の腎臓病を持つ心臓疾患患者では貧血の改善を図ることが必要であり、中等度の腎臓病を持つ心臓疾患患者では骨格筋のミトコンドリア機能の改善に向けた運動療法が重要となる。
健康寿命のために、ヘモグロビン値をどの程度まで改善させるべきか検証予定
これまでの報告では、心臓病患者の有酸素運動の能力の改善には運動療法が推奨されていたが、今回新たに、重度の腎臓病を持つ心臓疾患患者では、運動療法だけでなく貧血の改善を図る重要性が示された。
「今後は、有酸素運動の能力を改善し、健康寿命の延伸や楽に行える活動範囲を増やすためには、ヘモグロビン値をどの程度まで改善させる必要があるのかについて検証していきたい」と、研究グループは述べている。
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・神戸大学 プレスリリース