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肺高血圧症の新規治療標的候補を同定、血管新生因子「PGC-1α」-東大病院

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2023年09月15日 AM11:00

肺高血圧症におけるVEGFや血管新生の意義は?

東京大学医学部附属病院は9月11日、肺高血圧症のモデルマウスにおいて、肺高血圧症の進展過程に特徴的な肺内の血管新生を立体的に可視化することに成功し、肺高血圧症の進展過程において血管新生が代償的な役割を担っていること、またその血管新生は転写共役因子PGC-1αにより制御されていることを発見したと発表した。この研究は、同病院の藤原隆行特任助教、武田憲文特任講師(病院)、小室一成特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肺高血圧症は、肺血管の進行性狭窄を特徴とする難治性疾患であり、以前は診断からの平均生存期間は2.8年と非常に予後が不良だった。近年は治療薬の開発により改善してきているものの、いまだに肺移植を必要とする重症な患者も多く、新しい治療法の開発が望まれている。

これまでの研究では肺高血圧症の肺組織で血管内皮成長因子()の発現が上昇し、それが異常な血管構成細胞の増殖に関与していると考えられていた。低酸素負荷誘発性肺高血圧症モデルマウスでは、VEGFシグナルの上流に位置する低酸素誘導因子(Hypoxia inducible factor:HIF)の欠損により、VEGFが低下するとともに低酸素負荷誘発性肺高血圧が改善されたが、その一方で、治療目的にVEGF受容体阻害薬を投与すると低酸素負荷誘発性肺高血圧が悪化するなどの矛盾が生じ、肺高血圧症におけるVEGFや血管新生の意義は不明点が多く残されていた。

研究グループは、これまでに組織透明化技術および多光子励起顕微鏡を用いてマウスの肺血管全体を三次元可視化する手法を確立している。今回の研究では、この手法を用いて肺高血圧症における血管新生の意義について検証を試みた。

VEGF受容体阻害でマウス肺高血圧が悪化、血管新生反応の増強は新規治療標的候補

まず、組織透明化技術および多光子励起顕微鏡を用いて、低酸素負荷誘発性肺高血圧症モデルマウスの血管形態変化について立体的に評価した。その結果、VEGFの上昇とともに肺末梢に伸長する血管新生像が認められたが、VEGF受容体阻害薬であるSU5416ならびにカボザンチニブを投与すると、VEGFの発現上昇および血管新生は抑制され、低酸素負荷誘発性肺高血圧は悪化した。すなわち、肺高血圧症において血管新生は代償的に働いており、この血管新生反応の増強が新規治療標的となりうることが示唆された。

HIFとは独立した血管新生因子PGC-1αに着目

VEGFシグナルおよび血管新生の上流に位置するHIFの活性化が低酸素負荷誘発性肺高血圧を悪化させることはすでに報告されていたため、研究グループは、HIFとは独立した血管新生因子PGC-1αに着目した。PGC-1αは低酸素負荷誘発性肺高血圧症モデルマウスの血管内皮細胞で発現が上昇し、SU5416ならびにカボザンチニブの投与により抑制されるなど、VEGFと同様の発現パターンを呈することから、血管新生反応の上流に位置することが示唆された。

肺高血圧における代償的血管新生はPGC-1αにより制御

さらに、PGC-1αの肺高血圧症における意義を検証するため、肺内皮細胞特異的PGC-1αノックアウトマウスに低酸素負荷を行ったところ、VEGFの発現および血管新生反応は抑制され、低酸素負荷誘発性肺高血圧が悪化した。その一方、PGC-1α活性化薬であるバイカリンを投与するとVEGF発現および血管新生反応が増強し、低酸素負荷誘発性肺高血圧は改善され、酸化ストレスやDNA損傷、細胞老化も軽減することが明らかとなった。これらの結果よりPGC-1αの活性化が肺高血圧症の新規治療標的となりうることが示唆された。

三次元可視化技術をさらに多くの血管疾患の病態解析に応用し、新規治療法開発へ

今回の研究では、組織透明化技術および多光子励起顕微鏡を用いることにより、従来の手法では捉えることが困難であった血管新生像を立体的(三次元的)に可視化することに成功し、肺高血圧症における血管新生の意義が明らかになった。「血管生物学の分野において、従来の解析手法では血管の形態を立体的に評価することは困難で、その病態の正確な理解の妨げとなっていたが、この三次元可視化技術をさらに多くの血管疾患の病態解析に応用し、新規治療法開発につなげていくことを目指す。また、肺高血圧症の新規治療薬としてのPGC-1α活性化薬についてもさらなる検討を行い、実用化に向けて進めていきたい」と、研究グループは述べている。

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