直腸がん術後の経過に大きな影響を及ぼす「縫合不全」は13%と高率
札幌医科大学は9月13日、インドシアニングリーン(以下、ICG)を用いた腸管血流の蛍光観察が、直腸がんの術後合併症を低下させることを確認したと発表した。この研究は、同大医学部消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座の竹政伊知朗教授、横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター外科の渡邉純准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」に掲載されている。
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大腸がんは日本人のがん死亡数女性1位、男性2位で、罹患数も男女とも近年増加傾向にあり胃がんや肺がんを抜いて1位となっている。こうした中、直腸がん手術後の縫合不全という重篤な合併症への効果的な対策が求められている。
直腸がん術後の縫合不全率は、国内の報告をまとめたデータによると約13%と高率だ。縫合不全が発症すると、便汁が腹腔内に漏れて重症腹膜炎(感染症)を発症する場合もある。また、退院までの期間も縫合不全がない場合は10日前後だが、あると1か月以上かかることが多く、縫合不全の予防は術後の経過に大きく影響する。
ステージ0~3の根治的切除可能な直腸がん患者850人、ICG評価群/対照群で検証
EssentiAL試験は、腹腔鏡手術(ロボット支援手術も含む)を受ける直腸がん患者の術後合併症である縫合不全予防において、ICGを用いた蛍光観察による腸管血流評価の有効性を検証する多施設共同第3相ランダム化比較試験(jRCTs031180039)。研究グループがコンセプトや試験計画を立案し、全国41施設の協力のもと実施された。
主要評価項目は「縫合不全発生率」で、ICGを用いた蛍光観察による腸管血流評価の縫合不全発生率における優越性を検証するデザインになっている。対象の主な組み入れ規準は「20歳以上」「ステージ0~3の根治的切除可能な肛門から12cm以内の直腸がんと診断」「腹腔鏡手術(またはロボット支援手術)を施行し腸管の吻合を予定」「全身状態が良好(ECOG PSが0または2)」「十分な臓器機能を有する」などとした。
2018年12月~2021年2月の間に登録された850人の患者は、ICGを用いた蛍光観察による腸管血流評価群(ICG群)か、蛍光観察を実施しない対象群(対象群)に1:1で割り付けられた。850例のうち、有効性解析集団(ICG群/対象群)は422/417人だった。
縫合不全発生率はICG群7.6%/対象群11.8%、再手術率もICG群で低率
主要評価項目である縫合不全発生率は、ICG群で7.6%、対象群で11.8%、リスク比*5 0.645(95%信頼区間:0.422-0.987、p=0.041)と、統計学的に有意にICG群で縫合不全発生率が低下することが示された。また、再手術率もICG群で0.5%、対象群で2.4%(p=0.040)と、統計学的に有意にICG群で低率だった。安全性に関しては、ICG群においてICG投与による有害事象は認められなかったとしている。
直腸がん術後縫合不全予防に対する標準治療となることに期待
今回の研究により、ICGを用いた蛍光観察による腸管血流評価を用いることで、より多くの直腸がん術後縫合不全の予防が期待される。
「縫合不全の予防は、重症感染症による入院期間の延長や人工肛門造設による生活の質の低下を防ぐことが期待できる。また、日本から発信する世界初の明確なエビデンスによって、本方法が直腸がん術後縫合不全予防に対する標準治療となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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