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心臓弁の正常な形態形成に心内膜細胞から分化したマクロファージが必須と判明-慈恵大

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2023年09月14日 AM09:30

胎生期の心臓でNkx2-5により心内膜細胞の一部が血球前駆細胞に分化、その詳細は?

東京慈恵会医科大学は9月12日、胎生期マウスの心内膜細胞がNkx2-5とその下流で働く2つのシグナル因子によってマクロファージに分化する転写制御機構を明らかにし、そのマクロファージは心臓弁の正常な形態形成に必須な存在であることを特定したと発表した。この研究は、同大細胞生理学講座の劉孟佳特任講師、中野敦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

胎生期の心臓は、短期間で大きな形態変化が起こる。多分化能を持つ心臓前駆細胞が、いくつかの重要な転写因子の働きにより心臓を構成する細胞に分化する。転写因子Nkx2-5には、心臓の内膜を構成する心内膜細胞の一部を血球前駆細胞に分化させる働きがあることが明らかにされている。

今回の研究では、Nkx2-5の下流で働くシグナル因子を探索することで、より詳細な分子制御機構を解明することを目的とし、研究を行った。Nkx2-5欠損マウス胎仔の心臓から、バイオインフォマティクス解析技術の一細胞RNAシーケンスを駆使して、Nkx2-5の下流で働いているシグナル因子を探索。また、これらのシグナル経路の役割を調べた。

Nkx2-5下流で働くNotchシグナル、心臓前駆細胞の運命決定に関連

一細胞RNAシーケンスデータを用いて、野生型とNkx2-5欠損マウスの胎仔心臓(胎生9.5日目胚)の遺伝子発現を比較した。遺伝子の発現様式を元に細胞種を分類したところ、心内膜細胞には5種類あり、そのうち2種類の心内膜細胞がNkx2-5欠損マウスで消失していることを発見した。この2種類の細胞は、のちの心臓弁や中隔となる心内膜床を構成する細胞と、心内膜細胞由来の血球前駆細胞であることが判明。そのため、Nkx2-5は心内膜細胞が心内膜床細胞と血球前駆細胞に分化するために必須の転写因子であることを意味する。

続いて、心内膜細胞でどのようなシグナル経路がNkx2-5の転写制御を受けるかを調べるため、野生型とNkx2-5欠損マウスの心内膜細胞全体における遺伝子発現差をバイオインフォマティクス解析。その結果、Nkx2-5欠損マウスでは細胞運命決定に重要なNotchシグナルが有意に減少していた。遺伝子組換えマウスを作製して解析したところ、心臓が血液で充満していたことから、Nkx2-5の下流でNotchシグナルを活性化すると、心臓から血液が過剰に産生されることが示された。今度は、Nkx2-5を欠損した状態で、Notchシグナルを強制発現させると表現型が正常に戻るかを解析(レスキュー実験)。その結果、Nkx2-5欠損マウス心臓の表現型である心内膜床細胞と血球前駆細胞の欠損がNotchシグナルの強制発現によりレスキューされることが観察された。以上からNotchシグナルがNkx2-5の下流で働くことで、心臓の心内膜床形成と造血が促されることが証明された。

レチノイン酸シグナル抑制・Notchシグナル促進、血球前駆細胞分化とマクロファージ成熟に重要

前述の一細胞RNAシーケンスデータを用いた別のバイオインフォマティクス(NicheNet)解析により、活性型レチノイン酸(all-trans Retinoic Acid:atRA)産生を抑制する代謝酵素Dhrs3が、造血性心内膜細胞分化に最も影響力のあるターゲット遺伝子であることが予測された。Dhrs3の発現はNkx2-5欠損マウス心内膜細胞で有意に減少しており、血球前駆細胞の分化にはレチノイン酸シグナルが抑制される必要があると考えられた。

そこで、レチノイン酸の造血細胞分化における役割を調べるため、胎生期の心臓および他の造血器官(卵黄嚢と胎盤につながる背側大動脈部位)から造血細胞を体外で分化誘導する実験を実施。atRA(活性型レチノイン酸)やレチノイン酸阻害剤(DEAB)やNotchシグナル阻害剤(DAPT)の効果を解析した。その結果、心臓からの血球前駆細胞がマクロファージに成熟する際に、レチノイン酸の抑制とNotchシグナルの活性が必要であることが明らかになった。

また、Nkx2-5下流でNotchシグナルを強制発現し心内膜細胞からの造血を誘導した心臓を解析。その結果、マクロファージの産生の増加とDhrs3陽性マクロファージの割合が有意に増加することを確認した。以上から、レチノイン酸シグナルの抑制とNotchシグナルの促進はどちらも血球前駆細胞の分化とマクロファージの成熟に重要であることを証明した。

Nkx2-5下流の2つのシグナル経路、心臓の形態形成に寄与

最後に、遺伝子組換えによりそれらの細胞を欠損させたマウス心臓の表現型を解析。その結果、心臓弁にコラーゲンなどの細胞外基質の蓄積が変異マウスで認められ、心臓由来のマクロファージが心臓弁の形態形成に必須な役割を持つことが示された。

これらの結果により、Notchシグナルとレチノイン酸シグナルがNkx2-5依存的な心内膜細胞からの造血およびマクロファージ分化に働き、心内膜床部分から形成される心臓弁の組織リモデリングに寄与することを証明したとしている。

先天性心疾患の病態解明などに期待

今回の研究により、心臓からできる血球系前駆細胞を経てマクロファージになる分子メカニズムが証明されたことは、これが進化的に保存された生命現象であることを意味するという。マクロファージは免疫細胞と思われがちだが、発生期においては、むしろ形態形成に深く関わることが示唆された。今後、検証を進めることにより、心臓におけるマクロファージの役割に関して理解が進み、将来的には先天性の心疾患に関する病態解明などにつながることが期待される、と研究グループは述べている。

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