80年前にローレンツが提案した「ベビースキーマ説」は正しいのか?
大阪大学は9月7日、赤ちゃん顔の「かわいさ」は、顔画像を逆さに提示しても同じように判断できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院人間科学研究科の藏口佳奈助教(現、四天王寺大学人文社会学部社会学科・講師)と入戸野宏教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Perception」にオンライン掲載されている。
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「かわいさ」は刺激がもつ特徴の一つで、ヒトは丸みを帯びた顔の輪郭や広い額、大きな目といったものに対して、かわいいと感じる傾向がある。このような現象は80年程前に、動物行動学者のコンラート・ローレンツにより提案された(ベビースキーマ説)。
一方、ヒトの顔に対する印象は、画像を上下逆さに提示すると判断しにくくなることが知られている(顔倒立効果)。この現象は、顔の知覚には個々のパーツの特徴ではなく、パーツ間の位置関係が重要である証拠とされてきた。
かわいさの知覚には、丸みを帯びた顔や大きな目といった個別の要素的な特徴が影響するというローレンツの考えが正しければ、これまで成人顔で報告されてきた顔倒立効果は、赤ちゃん顔のかわいさの知覚には当てはまらない可能性がある。そこで研究グループは今回、赤ちゃん顔のかわいさの判断が、顔画像を上下逆さに提示することで変わるか否かを検証した。
赤ちゃん顔のかわいさの評定値は、顔を逆さにしても低下せず
研究では、20~71歳の日本人男女299人を対象にオンライン実験を実施。まず、コンピュータで合成した6か月児の赤ちゃん顔画像12枚から、かわいさの平均評定値が高かった顔6枚と低かった顔6枚を1枚ずつ見せて、それぞれのかわいさを7段階で評定してもらった(1:まったくかわいくない~7:非常にかわいい)。
次に、かわいさの程度を増減させた別の合成顔のペアを9対見せ、どちらの顔がよりかわいいと感じるかを選択してもらった。このとき、顔画像の上下が正しく提示されている顔(正立顔)を判断する群と、上下逆さに提示されている顔(倒立顔)を判断する群を設けた。また、比較のために赤ちゃん顔の「美しさ」を正立顔と倒立顔について判断する群も設定。実験参加者は4つの群のどれか1つに参加した。
その結果、赤ちゃん顔のかわいさの評定値は、顔を逆さにしても低下しないことが判明。また、かわいさの平均評定値が高かった顔と低かった顔の差も同様に変化しなかったという。
かわいさはパーツの特徴で知覚されるというベビースキーマ説を支持する結果に
さらに、2つの顔からよりかわいい顔を選択する課題の成績も、顔画像の向きにかかわらず偶然よりも高くなった。ただし、倒立顔では僅かに成績が下がった。同様の結果は、赤ちゃん顔の美しさを評価・判断するときにも得られたという。
これらの結果は、赤ちゃん顔のかわいさは、上下逆さになっても同じように知覚できることを示している。かわいさのわずかな違いを判断するときには、目・鼻・口などの相対的な位置関係も利用されるが、主には、個々のパーツの特徴(丸みを帯びた顔の輪郭や大きな目など)に基づき、かわいさは知覚されるということが明らかになった。同知見はローレンツのベビースキーマ説と一致している。
かわいいと感じられるロボットの創作などに役立つ可能性
今回の研究成果により、赤ちゃんの顔の「かわいさ」は、大人の顔の魅力とは異なり、パーツの間の位置関係というよりも、輪郭の丸みや目の大きさといった、赤ちゃん顔によく認められる個々のパーツの特徴に基づいて知覚されることが明らかになった。
「本知見に基づけば、かわいいと感じられるロボットやイラストを創作するときに、顔パーツの配置を工夫するよりも、かわいいと感じられる個々の要素を組み合わせるのが良いと言える」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU