「小児の認知症」と表現される遺伝性の希少疾患
宮崎大学は9月8日、「小児の認知症」と表現されるニーマン・ピック病C型という先天性の難病に対し、治療薬候補として有望視されているシクロデキストリン(CD)の有効性発現や毒性発現に関わる分子構造学的な特性を見出したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院薬剤部の山田侑世薬剤師、池田龍二教授、熊本大学大学院生命科学研究部の石塚洋一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical and Translational Medicine」に掲載されている。
ニーマン・ピック病C型(NPC)は、小児・新生児期に進行性の中枢神経障害が発症し、患者の多くが10歳前後で亡くなる遺伝性の希少疾患である。細胞内のリソソームにおいてコレステロールを輸送するタンパク質NPC1やNPC2が遺伝的に機能不全になることで、細胞内のコレステロールバランスが破綻する。これにより、精神発達の遅れや運動失調といった神経症状、肝脾腫や呼吸不全といった全身症状が認められる。
HP-β-CD投与の治験が進行中だが、聴覚に対する有害事象も
現在、複数のグルコースが環状に連なってできるシクロデキストリン(CD)の誘導体で、生体のコレステロールを強力に可溶化する2-hydroxypropyl-β-CD(HP-β-CD)を静脈内または髄腔内投与する世界規模の治験が行われている。しかし、劇的な治療効果は得られず、また、多くの症例で聴覚障害が引き起こされたことから、患者とその家族は“deaf or death(失聴か死か)”という苦渋の選択を迫られており、より有効で安全な治療薬が望まれている。
CD誘導体とコレステロールの結合における、有効性/毒性に関わる構造様式の特徴が判明
今回研究グループは、さまざまな分子構造をもつ複数のCD誘導体とコレステロールとの結びつき方(複合体形成様式)を、溶解度解析や分子間結合解析によって予測した。
その結果、コレステロールは、α-CD誘導体(グルコース6分子)と複合体を形成せず、β-CD誘導体(グルコース7分子)と1:1および2:1複合体を形成し、γ-CD誘導体(グルコース8分子)と1:1複合体のみを形成することがわかった。さらに、モデル細胞やモデルマウスを用いた実験から、CD誘導体の有効性には1:1複合体の安定性が、毒性には2:1複合体の安定性がそれぞれ寄与している可能性を突きとめた。
「今後、研究成果を基盤にしたCDの分子構造最適化によって、臨床開発が進められているHP-β-CDを上回る有効性と安全性をもった次世代のCD誘導体が創出されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・宮崎大学 ニュースリリース