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「最近の成功経験」が行動に関わる脳部位の活動を高めると判明-東京医歯大ほか

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2023年09月13日 AM10:51

過去の成功経験に由来する報酬への期待が「」の活動に与える影響は?

東京医科歯科大学は9月12日、最近の成功経験が、大脳基底核の黒質や線条体の神経細胞の行動に関わる活動を広範に増強することを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 細胞生理学分野のアライン・リオス助教、平理一郎准教授、礒村宜和教授の研究グループと、、玉川大学の研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、「Communications Biology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトを含む動物は過去の行動とその結果の経験を生かして、次に適切な行動を選択することができる。このように、生存のために行動を最適化する仕組みは、脳の大脳基底核が中心的な役割を担っている。特に大脳基底核の黒質にあるドーパミン細胞は、行動の結果としての報酬の有無(水や餌の獲得など)を予測し、結果を評価する活動を示す。

一方、大脳基底核の線条体からは直接路と間接路という出力路が存在し、行動の発現に関与している。黒質ドーパミン細胞はドーパミンを介して線条体の直接路細胞を興奮させ、間接路細胞を抑制させると考えられている。しかし、過去の成功経験に由来する報酬への期待が大脳基底核による行動の最適化の仕組みにどのような影響を与えるのかは不明なままだった。

そこで研究グループは今回、ラットの黒質ドーパミン細胞と線条体の直接路・間接路細胞において、行動の発現に関与する活動が報酬の予測(期待度)に応じてどのように変化するのかを系統的に調べた。

ラットは直近5試行まで遡った報酬獲得の経験を次の行動選択に生かしていた

研究では、ラットに前肢でレバーを押すか引くかの行動を選択させ、各行動の直後に報酬(甘い水滴)を確率的に与える行動課題を学習させた。例えば、レバーを押すと確率70%で報酬を得られるが、引いても確率10%で報酬を得られる設定では、ラットは試行錯誤の末にレバーを押すことを選択するようになる。しばらく試行を経てから報酬確率の配分を変更すると、再び試行錯誤で新たに最適な行動を探す。実際のラットの行動選択を解析すると、直近5試行まで遡った報酬獲得の経験を次の行動選択に生かしていたという。

大脳基底核の投射細胞の行動関連活動は報酬の期待で「一様に」高まる

次に、この行動選択に取り組んでいるラットの大脳基底核から神経細胞の活動を計測した。ここでは研究グループが独自開発した「マルチリンク解析」という、神経細胞の出力先を調べる技術も活用した。まず、黒質緻密部という部位のドーパミン細胞において、レバーを押し引きする行動に関与する活動が過去5試行の報酬獲得率(報酬期待の程度)と相関して増強されることが示された。同様に、黒質緻密部が出力を送る背側線条体という部位の直接路細胞も間接路細胞も、ともに行動に関与する活動が報酬期待に応じて増強された。この増強作用は黒質-線条体投射の部位にかかわらず広く確認された。

大脳基底核の投射細胞の結果関連活動は「細胞型や部位により異なって」増減

一方、これらの神経細胞において、実際の結果(報酬や無報酬)に応答する活動は報酬期待により多様な修飾変化を示した。これらの所見をまとめると、大脳基底核の投射細胞の行動関連活動は報酬の期待で一様に高まり、結果関連活動は細胞型や部位により異なって増減することが判明した。

黒質ドーパミン細胞の活動が報酬の予測や結果と密接に関連していることは古くから知られていたが、研究グループは今回新たに、過去の成功経験で生じる報酬期待が黒質ドーパミン細胞の行動に関与する活動を増強することを確認した。同様に、報酬期待は線条体の直接路と間接路の活動もともに増強させることが明らかになった。

適切な行動を学べない精神・神経疾患の新たな理解や治療法開発につながることに期待

一方、ドーパミンはドーパミンD1受容体を介して直接路の活動を促進し、D2受容体を介して間接路の活動を抑制する働きがある。したがって、線条体の間接路細胞は報酬期待の情報を黒質ドーパミン細胞だけから受け取っている可能性は低く、報酬期待の情報は大脳皮質や視床から線条体へ入力するものと考えられるという。このように、これまでの通説とは異なり、大脳基底核における報酬期待の情報は、ドーパミン伝達だけでは説明がつかないことが明確に示された。

「日常生活では、過去の行動と結果に基づいて現時点で最適と思われる行動を選択すべき場面が数多くある。行動の最適化を担う脳の仕組みが損なわれてしまうと、例えば特定の行動にこだわり過ぎて、行動の切り替えが上手くできなくなってしまう。本成果は、そのような精神・神経疾患の新たな理解や治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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