中高年期の女性の自殺念慮、更年期との関係は?
東北大学は9月6日、思春期の子どもと養育者を追跡して調査している「東京ティーンコホート」のに参加する子どもの母親を対象とした調査データの解析により、更年期前の自殺したい気持ちの状態を考慮しても、「更年期が始まると自殺したい気持ちが生じやすい」ことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科精神看護学分野の中西三春准教授、ブリストル大学のサラ・サリバン主席研究フェロー、東京都医学総合研究所の西田淳志・社会健康医学研究センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」に掲載されている。
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英国など欧米諸国で近年、中高年期の女性の自殺死亡率が上昇傾向にある。また日本でも新型コロナウイルス感染症のパンデミック以後、女性の自殺が増加していることが指摘されてきた。しかし、この女性特有の増加の理由は必ずしも明らかではない。
女性は中高年期に更年期を経験する。更年期のホルモンバランスの変化とそれによる身体的不調などが引き金となり、うつ状態や自殺念慮ひいては自殺のリスクが高まると考えられてきた。自殺念慮とは自殺したい気持ちを指し、自殺関連行動にしばしば先行して現れる、自殺の危険因子のひとつである。自殺念慮がある人を早期に把握して支援につなげることは、自殺の予防において重要とされている。
これまでの研究で、更年期が始まった女性は一定の割合で自殺念慮をもっていることが明らかにされている。例えば英国では、更年期にある女性の10人に1人が自殺念慮を経験したと報告されている。しかし先行研究では更年期が始まる前の女性の状態を把握できないため、現在の自殺念慮が更年期によって発生したのか、それとも更年期の前からあったのかを区別できない限界があった。
母親約3,000人を対象に自殺念慮の有無を調査
研究グループは今回、東京の思春期の子どもと主たる養育者を追跡して調査している「東京ティーンコホート」のデータを活用して、更年期と自殺念慮の関係を調査した。参加している養育者のうち、子どもの母親である2,944人(平均年齢44.0歳)の、1)子どもが12歳時の第2期調査(2014年7月~2017年1月)、2)子どもが16歳時の第4期調査(2019年2月~2021年9月)の情報を解析に用いた。第2期調査時に把握した自殺念慮の有無を調整したうえで、第4期調査時の自殺念慮の有無と更年期が関連するかどうかを検証した。
「社会から多くの支援を受けること」が自殺念慮抑制に
その結果、第2期調査の後に更年期が始まった人は、まだ更年期が始まっていない人と比べて、第4期調査時に自殺念慮を生じるリスクが統計的に有意に高くなった。さらに、「社会から多くの支援を受けていると、自殺したい気持ちが抑えられる」こともわかった。
これまで以上に社会として支援する必要性がある
今回の研究で、女性において更年期の始まりを経験することが、自殺リスクの上昇と関連すること、および社会から多くの支援を受けていると自殺リスクが抑制されることが明らかになった。以上から、更年期が始まった女性に対しては、自殺したい気持ちの出現に気を配り、これまで以上に社会として支援する必要性があると考えられる。
一方、研究は思春期コホートに参加する養育者を対象としたため、子どものいない女性は含まれていないこと、更年期に関する先行研究と比べると年齢が若い(まだ更年期が始まっていない人が多い)点に限界がある点に留意が必要だ。「今後は、出産・育児経験の有無やより幅広い年齢層で、同様の関連が見られるか検証することが望まれる」と、研究グループは述べている。
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