3つの領域にある心臓前駆細胞、左心室筋へ特異的に分化する細胞は不明
国立循環器病研究センターは9月6日、心臓形成の最も初期において傍心臓領域(juxta-cardiac field)と呼ばれる領域に、左心室筋へと特異的に分化する前駆細胞が存在することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター分子生理部の渡邉裕介室長(現・心臓再生制御部)、中川修部長(現・病態ゲノム医学部)、東京大学、京都府立医科大学、立命館大学、国立遺伝学研究所らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。
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将来心臓を構成する細胞は胚発生期の心臓前駆細胞から分化していくが、それら心臓前駆細胞は一次心臓領域、二次心臓領域、および傍心臓領域と呼ばれる胚内の異なる領域に存在している。左心室筋は一次心臓領域と傍心臓領域の前駆細胞に由来して形成される。また、傍心臓領域の前駆細胞は心筋細胞と心外膜細胞の両方に分化する能力があることが示されている。しかし、これまでに左心室筋に特異的に分化する心臓前駆細胞の存在は明確に示されていなかった。
Hey2エンハンサー活性化細胞、左心室の心筋細胞特異的に分化
研究グループは、傍心臓領域にこれまで報告されていない、左室心筋に特異的に分化する細胞集団が存在することを突き止めた。最初に、心臓形態形成を制御することで知られる転写因子Hey2の遺伝子発現を制御する転写調節領域(Hey2エンハンサー)の活性を可視化できる遺伝子組換えマウスの胚を観察したところ、心臓の最初の構造である心原基が形成される際に、未分化な心臓前駆細胞でHey2エンハンサーが活性化することを見出した。次に、細胞の分化運命を追跡可能な遺伝子組換えマウスを用いて、Hey2エンハンサー活性化細胞が心臓のどの構造に寄与するかを解析したところ、心原基形成初期のHey2エンハンサー活性化細胞は左心室の心筋細胞特異的に分化していくことを見出した。
Hey2エンハンサー、Tbx5発現細胞より頭側にある傍心臓領域の心臓前駆細胞で活性化
さらに、心原基形成期の胚を用いて一細胞および組織レベルでの遺伝子発現解析を行ったところ、Hey2エンハンサーは傍心臓領域の心臓前駆細胞で活性化していることを突き止めた。左心室筋および心房筋の前駆細胞では転写因子Tbx5が発現することが知られていたが、心原基形成の初期においてHey2エンハンサー活性化細胞はTbx5が発現する領域よりも頭側に存在しており、Hey2エンハンサー活性化細胞とTbx5発現細胞は左心室筋の異なる心筋細胞へと寄与していることが示された。以上の解析結果により、心原基形成の初期においてHey2エンハンサー活性によって特徴づけられる左心室筋特異的前駆細胞が傍心臓領域に存在しており、それらはTbx5発現陽性の前駆細胞とは異なる細胞集団であることが明らかになった。
左心室筋前駆細胞や左心室筋細胞の効率的な作製に応用できると期待
今後は、Hey2エンハンサーが活性化している左心室筋前駆細胞とTbx5が発現している左心室筋前駆細胞の違いや、それら左心室筋前駆細胞が発生してくる分子機構の解明を行っていく。本研究および今後の研究により得られる知見は、培養下での左心室筋前駆細胞や左心室筋細胞の効率的な作製に応用できる可能性があり、将来的に再生医療の観点からも発展が期待される研究だと、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース